ルピシア グルマン通信7月号 Vol.83
季節を告げるごちそう 特集:ホワイトアスパラガス 季節を告げるごちそう 特集:ホワイトアスパラガス

今月の特集はホワイトアスパラガス。北海道では毎年5月から6月の約1ヵ月間しか収穫することができない特別な野菜です。独特の甘さとほろ苦さ、シャキシャキとした食感がたまらない極上の素材を、さてどのように楽しみましょうか?

グリーンとホワイト

アスパラガスと言えばグリーンとホワイトがありますが、実はこの2種類、基本的に同じアスパラガスで栽培方法が違うだけということをご存知でしたか。おなじみのグリーンアスパラガスは太陽の光を浴び、光合成により緑色に育ちます。一方、ホワイトアスパラガスは日の光を避けて栽培するため白いまま育ちます。現在、年間を通じて販売されているのはグリーンですが、かつてはアスパラガスといえばホワイトが主流でした。ヨーロッパではアスパラガスと言えばホワイト。春を告げる野菜として断然人気です。では、その歴史を簡単に振り返ってみましょう。

国産アスパラガスの発祥

アスパラガスは古代ギリシャ時代から栽培されていた野菜でその見た目から「食べる象牙」「畑の貴婦人」などと珍重されて来ました。ヴィラ ルピシアのあるニセコ周辺はホワイトアスパラガスの産地であると同時に、その生産の歴史にも深い関わりがあります。

ニセコの北西、ニセコ連峰を隔てた海沿いの町・岩内(いわない)町。この町で生まれた農学博士・下田喜久三さんが1922年(大正11年)に日本で初めてアスパラガスの栽培に成功しました。下田さんは冷害で苦しむ農家の惨状を見て、寒さに強い作物が必要だと考えました。ある時、枯れた畑に育つある植物に目を付けた下田さん。その植物がアスパラガスと同じユリ科のキジカクシであることをつきとめ、アスパラガスも栽培できるのではないかと考えます。海外から種を取り寄せ、研究を重ねた結果、寒冷地でも育つ品種を作ることに成功。こうして岩内町は「日本のアスパラガス発祥の地」となりました。

一方、ニセコの東、羊蹄山麓(ようていさんろく)の町・喜茂別(きもべつ)町でも岩内町に続いてアスパラガスの栽培に取り組みます。喜茂別地域のカルシウムを多く含んだ土壌、昼夜の寒暖差が栽培に適していたことからアスパラガス農家は徐々に増えていきました。岩内町を「発祥の地」とするのに対し、生産地として成長した喜茂別町は「揺籃(ようらん)(ゆりかごの意味)の地」と言われています。ちなみに当時はほとんどが缶詰に加工され、海外へ輸出されました。

ホワイトの復権

さて、かつてホワイトが主流だったアスパラガスはなぜグリーンと入れ替わったのでしょうか?

それにはいろいろな要因がありますが、中でも大きな原因のひとつは生産にかかる手間でした。ホワイトアスパラガスは収穫までの間、直接日光にさらされないよう、成長に合わせて土を盛り上げて遮光をする必要があります。また収穫時も地中から掘り出す手間がかかり、なによりも収穫時期が限られます。一方、グリーンは他の野菜同様、地面から伸びたものを収穫すればいいので作業が比較的楽です。

こうして一般にグリーンが主流となりましたが、近年、生のホワイトアスパラガス料理のおいしさに注目が集まるや否や、北海道ブランドのホワイトアスパラガスは人気野菜の仲間入りを果たしたのです。

春の贈りもの

「ホワイトアスパラガスって、まるで春からのプレゼントのように待ち遠しい素材です」と語るのはヴィラ ルピシアの植松シェフ。北海道の長い冬が終わり、雪解けの頃になるともうソワソワ、ワクワク。親しいホワイトアスパラガスの生産者に「まだ?いつ頃?」と電話をかけてしまうほどです。フレンチのキャリアを積んだ植松シェフにとって、ホワイトアスパラガスはなじみの素材ですが、ヨーロッパ産と北海道産とではまるで違うと言います。「ヨーロッパ産はむいた皮で蓋をするようにじっくり茹でるのが基本です。ですが、北海道産はサッと茹で上げるだけ。あっという間です。これが実に旨い。茹で加減を見るために一口食べると、その手が止まりません」と顔をほころばせます。

植松シェフが特においしいと使用しているホワイトアスパラガスは喜茂別産。最盛期には毎朝、シェフ自ら生産者の元へ車を走らせます。その朝、収穫したばかりのホワイトアスパラガスを抱え、そのまま厨房へ。午前中にすべての下処理を済ませます。この畑から厨房まで直結している“地の利”もヴィラ ルピシアのホワイトアスパラガスメニューのおいしさの秘訣だと植松シェフは胸を張ります。「僕にとって北海道産ホワイトアスパラガスはおいしい野菜の要素がぎゅっと詰まったような存在。一口食べて、ああ旨いなってしみじみ感じてしまいます」。

今月号のメニューはニセコで味わう朝もぎ(朝採れたて)のホワイトアスパラガスのおいしさをそのまま味わってほしいと作り出されました。素材の旨みを味わうシンプルでストレートなものから、ご家庭で手軽に楽しんでいただく極上のフレンチメニューまで。新鮮なホワイトアスパラガスを使った自慢のメニューをお届けします。

朝もぎだけが持つ 特別なおいしさ ホワイトアスパラガス