この地球上で最も美しい香りの飲み物の一つが、烏龍茶であることには間違いがありません。
烏龍茶の主要生産地は、台湾および中国福建省と広東省の一部地域に限られています。17〜18世紀前半に福建省北部の名産地、武夷山周辺で生産されていた記録が残っていますが、烏龍茶そのものの誕生については謎が多く、その真相は歴史の闇の中にあります。
一説によれば中国北部の戦乱を逃げてきた人々が、広東省周辺の山奥に茶畑などを開墾(かいこん)、収穫した茶葉が何時間も山道を背負われることで、竹カゴの中でゆさぶられて、麓(ふもと)に運ばれるまでの間に非常によい香りを発したことに始まるといわれています。
烏龍茶の製茶方法は種類によって異なりますが、茶葉を日光にさらし、しおらせた後にゆすって、室内に放置し、またゆすって休ませる、萎凋(いちょう)と撹拌(かくはん)が基本です。
ゆすられた茶葉の表面には無数の細かい傷がつくため、茶葉内にある成分が変化しカサブタのように細胞を保護しようとします。また傷口周辺も軽く酸化し変色します。すこし残酷ではありますが、傷つき、回復し、また傷つく。この工程の繰り返しから、烏龍茶特有の軽やかな味わいと色合い、得も言われぬ芳香の元が誕生するのです。
この後、茶葉全体を揉みこみ、形を整え、保存のための乾燥と仕上げの焙煎を経て、烏龍茶は完成します。
烏龍茶の風味と香りは、製茶方法もさることながら、茶樹の品種によっても大きく異なります。
台湾や中国に聞香杯(もんこうはい)という烏龍茶の香りを聞く専用の器があるのは、これらの品種や製法の違いを深く楽しむためです。森や花束、果実や乳、焦がし砂糖のように様々な香りを楽しめる烏龍茶。ぜひ飲みくらべてください。
シンプルで使いやすい本場台湾製
台湾や中国・福建省などの烏龍茶産地には、主に烏龍茶を楽しむ茶藝館(ちゃげいかん)と呼ばれる喫茶施設が点在。書や絵画、骨董品や庭園などに工夫をこらした空間でお茶と会話を楽しみます。茶藝館で使われる特徴的な茶器が聞香杯(もんこうはい)。お茶を注ぎ、茶杯に中身を移して残ったお茶の残り香を聞く、専用の茶器です。温度が冷めていく間に感じる微細な香りの変化を楽しみます。