ルピシアだより 2014年5月号
チェック
わたしのお気に入り ダージリン茶園

お待ちかねのダージリン・ファーストフラッシュが到着!旬のお茶が届いたら、茶園ごとに飲み比べてみるのも醍醐味のひとつです。ルピシアのお茶好きスタッフたちに、「お気に入り茶園」の楽しみ方を聞いてみました!

茶園の個性は驚くほどさまざま
 インド北東部、ヒマラヤ山脈の麓(ふもと)に広がるダージリン。昼夜の寒暖差や深い霧、ミネラル豊富な土壌といった世界有数の恵まれた環境のもと、最高品質の紅茶が生み出されています。
 ダージリンには、はっきりとした四季があり、旬のお茶が摘まれるのは、春夏秋と年に3回。その最初のシーズン、3〜4月に摘まれるのが、ファーストフラッシュ(春摘み紅茶)です。みずみずしい若葉のような味わいと、カップの中で輝く黄金色の水色は、この時期だけの特別なもの。キリッと爽やかな味わいが緑茶にも似ているからか、日本人の嗜好にとても合います。
 旬の味わいをもっと楽しむために、ぜひおすすめしたいのが茶園ごとの飲み比べ。というのも、同じ春摘み紅茶でも、その風味や味わいは茶園によって驚くほどさまざまだからです。
茶園の地勢はもちろん、保有している茶樹の品種や茶畑の状態。そして、茶園を支える作り手たちの経験や技術力──。こうした色々な要素が有機的に重なり合って、茶園の個性が紡ぎ出されていくのです。
 お茶好きが集まるルピシアには、毎年ここのお茶が楽しみで仕方ないという「お気に入りの茶園」を持つスタッフがたくさんいます。その年ごとの微妙な風味の違いを堪能したり、とっておきの茶器で演出したりと、楽しみ方は十人十色。そこで今回は、スタッフが自信を持っておすすめする7つの茶園をご紹介。その茶園に対する熱い思いや、旬のお茶の楽しみ方など、生の声を聞いてみました。
ピュッタボン茶園
「春摘みの美味しさを初めて教えてくれた」
 1852年創設のピュッタボンは、ダージリン最古にして最大規模の茶園のひとつ。ダージリンの北西、標高450〜1950mに位置しています。
 春夏秋と年3回ある旬の中でも、とりわけ春摘みに定評のあるピュッタボン。標高の低いところでは他に先駆けて新芽の収穫が始まり、文字通り、春の訪れをいち早く告げる茶園のひとつとしても知られています。
 ルミネ大宮ショップ店長の田口も、その春摘み紅茶の独特な香りに魅せられた一人。「野菜のようにフレッシュな青さの中に、華やかなフローラルの香りと甘みを感じます」と話します。
 ピュッタボンは、「私にとって新人時代、春摘みってこんなに美味しいんだと教えてくれた最初のお茶」。だから毎年、ここの春摘みを飲むたびに、懐かしさと身の引き締まる思いで胸がいっぱいになるのだとか。「朝の一杯にこのお茶をいただくと、よい香りが体にしみわたって、『よし、今日も頑張ろう』と清々しいスタートが切れるんです」。
キャッスルトン茶園
「上質感をたっぷり演出して楽しみたい」
 キャッスルトンといえば、世界で最も有名な人気茶園。マスカテルフレーバー(熟した果実を思わせる芳醇な香り)を持つ極上の夏摘み紅茶によって、オークションでの最高価格記録を何度も更新したという逸話を持つ名園中の名園です。
 夏摘みのイメージが先行しますが、もちろん春摘みだって逸品ばかり。「雑味や渋みがなく、そっと寄り添うような気品ある風味がしみじみ美味しい」と、食品バイヤーの秋田は言います。
 おすすめのお茶請けは、羊羹や最中、和三盆の落雁といった上質な和菓子。「すっきりした春摘み紅茶と合わせると、それぞれの個性を消さずに口の中で品よくまとまるんです」。
 格式高いキャッスルトンの紅茶は、とっておきの演出で贅沢に味わいたいもの。「春のやわらかな光のもと、温めたポットで優雅にいれたり、和菓子と楽しむなら鉄瓶でいれてもムードが出ます。アイスティーにしてお洒落なワイングラスで味わえば、食事に合わせても華やかに楽しめますよ」。
ジュンパナ茶園
「真剣に向き合いたい繊細かつ複雑な味わい」
 ジュンパナは、上質なお茶を安定して作ることで専門家から高く評価される屈指の名門。山中の橋を渡り、長い長い石段を上った先の秘境に、茶園は広がります。抜群の自然環境のもとで育まれた樹齢100年超の茶樹から生まれる春摘み紅茶は、まさに正統派の逸品。ティースクール講師の小澤は、その風味を「繊細かつ複雑」と表現します。「袋を開けた瞬間は野菜のような青々した香り。湯を注ぐとフルーティーな香りが広がって、冷めると緑茶にも似たキリッとした渋みに変化する。飲み終えた後のカップの香りは、また違った表情で、その重厚感にはいつも驚かされるんです」。
 心地よい渋みがぎゅっと詰まったジュンパナのお茶は、上の空でいれていると瞬く間に絶妙の味わいを逃してしまうことも。「その繊細さゆえにごまかしがきかないので、お茶をいれる際には姿勢を正して真剣に向き合っています」。
サングマ茶園
「贅沢なアイスティーが自分へのご褒美」
 近年、人気急上昇のサングマはダージリンの未来を感じる茶園。マネージャーのジャー氏は、大学で農業を学ぶ根っからの研究者気質で、新しい試みにも果敢に挑戦しています。オーガニック農法に力を入れるサングマの茶園には、野生のハーブも生えていて自然がいっぱい。この豊かな自然と霧深い最高の環境が、力強い茶葉を育むのです。
 どっしりと深みのある伝統的な風味のものから、大輪の花を思わせる華やかな香りのものまで、さまざまなお茶を作っていますが、仙台一番町店店長の乳井のお気に入りは、正統派の味わいと言われる前者のタイプ。「特に春摘み紅茶は、山菜やハーブを思わせる清々しい青みが、他の茶園にはない特徴です」。
 昨年からすっかりハマっているのが、究極の贅沢ともいえる水出しアイスティー。「自分へのご褒美にいただくと、爽やかな青みが疲れた体をリセットしてくれる気がするんです」。
シンブーリ茶園
「初めて飲んだ時の衝撃が忘れられない」
 シンブーリは、満開の花のような華やかな香り立ちで人気の名園です。茶園内は4区画に分かれていますが、中でも標高が高く、日当たり、水はけともに最高の環境が揃っているのが「ティンリン」という特別なエリア。そこでは、ひときわ香り高い、最高品質の茶葉が作られています。
 今から約10年前、店舗スタッフ時代にシンブーリの春摘みと初めて出会ったという中村は、「その時の衝撃が未だに忘れられない」と振り返ります。その香気は、まるで高原に咲く白い小花のよう。「青さの残る中に、軽めだけどすごくよく通る花の香りが、螺旋を描いてクルクルと鼻腔を上っていくみたいで、本当に驚きの体験でした」。
 バイヤーとなった今では、美味しいお茶を求めて世界中を駆け回っています。「私にとってあの時の衝撃は、計り知れないお茶の可能性に気づかされる、大きなきっかけだったのかもしれません」。
まだまだあります おすすめの茶園
 トムソン茶園は特に西欧で評価が高く、品質にこだわった最上級の茶葉を生産することで知られています。とりわけ伝統的な製法で仕上げた正統派の春摘み紅茶は絶品。現地でこのお茶に出会ったバイヤーの古藤は、「正統派の味わいをこれほど忠実に守り続けている茶園があるなんて」と強く心を打たれたそう。芳醇な香り、深みのある味わい、蜜のような極上の甘さのバランスが秀逸な名園です。
 マーガレッツホープは、例年、安定して品質のよいお茶を作る人気茶園。深い奥行きのある正統派ダージリンを最も得意としています。「繊細で香り高い春摘み紅茶を楽しむなら、塩味のパイやキュウリのサンドイッチなど、シンプルなお茶請けが最適」と話すのは、食品バイヤーの渡邊。「歴史あるヨーロッパの名窯のカップ&ソーサーで、正統派の味わいをじっくり堪能したいですね」。

 ルピシアでは、できるだけ多くの茶園の魅力的なお茶を厳選してお届けしてまいります。みなさんも色々と飲み比べて、「お気に入りの茶園」探しを楽しんでみませんか?
ダージリン・ファーストフラッシュのおいしいいれ方
あらかじめポットとカップも熱湯で温めておきます。カップ1杯分(150ml)につき3〜3.5gのやや多めの茶葉をポットに入れ、ひと冷まししたお湯(85〜95℃)を注ぎ、少し短めに2〜2.5分蒸らします。ポットが温かいうちにお湯を注げば、2煎目も楽しめます。その時の蒸らし時間は、1煎目よりすこし長めに。/お茶の風味を引き出すには、茶葉を自然に蒸らすことができる、容量に余裕のあるポットがおすすめ。布製のティーフィルターを使うと、なめらかな味わいが引き立ちます。ファーストフラッシュは蒸らし時間によって風味が濃くなったり雑味を感じることもあるので、タイマーのご利用がベスト。プロは時間のすこし前で味見しながら、もうひと息というタイミングで一気にカップに注ぎます。