ルピシアだより 2015年4月号
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特集2:薔薇とお茶

古くから人類の良き友であるバラとお茶。
今月は、バラとお茶の意外な共通点や関わりなどティータイムに思わず披露したくなる5つのトピックをご紹介します。

Topic1. 薬から嗜好品へ

バラと人との関わりは4000年を越え、現在では2万5000種以上もの品種が存在すると言われています。これだけを見ても、バラが人類にとって特別な花であることは間違いありません。

バラの栽培は紀元前12世紀頃のペルシア地方(現在のイラン)で始まったとされています。当時は美を鑑賞するというよりも、香料や薬として重宝されたようです。

ローマ時代になると、バラへの関心は実用から愛でる対象へと広がっていきます。特に貴族の間で空前のバラブームが巻き起こりました。館はバラで埋め尽くされ、酒宴にはバラの香りの葡萄酒やお菓子、バラ水の噴水まであったとか。花の女王としての地位は、まさにこの時代に築き上げられたと言ってよいでしょう。

お茶もまた、最初は薬として扱われ、貴族の間で珍重された歴史があります。バラもお茶も実益を備えた魅力によって、人々の生活に深く根付いていったのです。

Topic2. 神話に登場するバラとお茶

人類との関わりが長いだけに、バラやお茶には数多くの神話があります。ここでは代表的な神話をご紹介しましょう。

ギリシア神話では、バラは愛と美の女神アフロディーテ(ヴィーナス)の誕生と共に生まれたとされています。エーゲ海の泡から女神が生まれたとき、大地が「自分にもそれ以上に美しい物を生み出せる」と咲かせたのがバラの花だとか。そのため現在でもバラは愛と美、喜びを象徴する花。結婚式で花嫁のブーケや花冠などに用いられるのも、この神話に由来しています。

一方、お茶はその故郷である中国の伝説上の帝王、神農が発見したと言われています。農耕の神であり医術の祖でもある神農は、人々を救うため1日に70余りの草木を試し、薬になるかどうかを判断。毒にあたったときは茶の葉で体を癒したという伝説が残されています。

Topic3. ダージリン紅茶の香りがするバラ!?

紅茶の香りがするバラがあるのをご存知ですか? 私たちの周りに咲くバラの香りは、大きく二つの系統に分けられます。

一つはヨーロッパに古くから咲いていたダマスク系のバラ。濃厚な甘さと華やかさ、爽やかさを併せ持つ香りを特徴とし、現在、香料用に栽培されるバラの大半がこのダマスク系になります。

もう一つは中国から欧州にもたらされたティー系のバラ。上品でフルーティーな香りが紅茶の香りを思わせます。長年、大手化粧品メーカーで調香師として研究に従事し、「国際香りと文化の会」会長でもある中村祥二氏によると、数あるティー系バラの中でもレディー・ヒリンドンという品種が紅茶の香りを最もよく表しているのだそう。ダージリン・セカンドフラッシュを缶から出して、その中をかいだ時とそっくりだとか。何とも魅惑的ではありませんか!

ティータイムに紅茶の香りのバラを飾ってみても、優雅で面白い趣向になりそうですね。

Topic4. お茶にまつわるバラの名前

バラ園などでバラを眺めるとき、女優や音楽家、ロイヤルファミリーなどに由来する品種名に注目するのも楽しいもの。実は、お茶にまつわる名前がついたバラもあるのです。

有名なのは、その名もズバリ「ブラックティー」。渋い赤色の花びらやティー系の香りがまさに紅茶(Black Tea)のよう。他にもミントティーやアップルティーなど、紅茶の名前にちなんだバラがたくさんあります。

お茶に関する事物や人物に由来するバラも。例えば、アプリコット色の艶やかなバラ「ティー・クリッパー」のティー・クリッパーとは、19世紀、中国から英国まで茶葉を運んだ高速帆船のこと。速さを競い、帆船同士で紅茶輸送競争が行われることもあったとか。

ほんのり上気したような花びらが愛らしい「フォーチュンズ・ダブル・イエロー」は、未知の植物を求めて中国や日本を訪れた19世紀のプラントハンター、ロバート・フォーチュンが中国で見つけたもの。彼は中国の様々な植物を欧州に持ち帰りますが、最大の功績は何と言っても、当時門外不出とされていたお茶の木をインドへと移植したことでしょう。

淡いピンクが可憐な「クイーン・アン」は、1702年に即位した英国のアン女王の名前にちなんでいます。彼女は希代のグルメで、一日に何度もお茶を飲むほどのお茶好きだったそう。茶器やセッティングなどにこだわる優雅な喫茶スタイルの基礎を確立したことでも有名です。

Topic5. クレオパトラも利用した
女性を輝かせるバラの香り

「バラの香りをかぐと幸せな気分になる」という方も多いのではないでしょうか。前述したように、バラは古くから世界中で薬として重宝されてきました。花や実はもちろん、香りの効能も経験的に知られ、不眠症や不安定な精神を癒すために用いられてきたという歴史があります。

最近の研究によると、香りの情報は脳の大脳皮質(考える部分)を通らず、一瞬で大脳辺縁系(感情と本能を司る部分)に伝わることがわかっています。そこから自律神経や内分泌系、免疫系をコントロールする司令塔・視床下部へ信号として伝達され、心身の機能に働きかけるのです。

バラの香りには女性ホルモンのバランスを整えたり、ストレスを和らげて心身をリラックスさせる働きがあると言われています。バラの香りが特に女性に好まれるのは、このような作用に基づくのかもしれません。

女性の心身を整え、魅力を引き出すバラの力を、バラ好きで知られる古代エジプト女王クレオパトラは知っていたのでしょう。バラの香油を身にまとい、花びらを膝の高さにまで敷き詰めた寝室で英雄カエサルを誘惑した話はあまりにも有名です。

クレオパトラが愛したバラと伝えられるのが、最も香り高い品種ダマスクローズ。高級ブランドの香水にも使われる香料として利用されていますが、1gの精油を作るのになんと1500個もの花が必要に。昔から非常に高値で取引されてきた貴重品なのです。

ダマスクローズの紅茶は、このバラの香りと花びらを上品な風味の紅茶に贅沢にブレンドしました。みずみずしく柔らかな蕾が目の前で花開いたかのような、気品あふれる香りが優雅に広がります。時代を越えて女性を虜にするバラの香りの紅茶で、極上のエレガンスをお楽しみください。