ルピシアだより 2015年9月号
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どうしてこんなに多彩なの? セイロン紅茶 どうしてこんなに多彩なの? セイロン紅茶

「セイロン紅茶」と呼ばれ、世界中で親しまれているスリランカの紅茶。でも、一口にセイロン紅茶といっても、風味は産地によって驚くほど様々。不思議に思った新人編集部員が、スリランカへと飛び立ちました!

私が行ってきました!
「セイロン紅茶」と呼ばれ、世界中で親しまれているスリランカの紅茶。
でも、一口にセイロン紅茶といっても、風味は産地によって驚くほど様々。不思議に思った新人編集部員が、スリランカへと飛び立ちました!

本当に同じ島!?

今回スリランカへ向かったのは、入社間もない新人おたより編集部員。バイヤーの買い付けに同行し、セイロン紅茶の魅力を探ることにしました。

スリランカはインド洋に浮かぶ熱帯の島。北海道よりひと回り小さな面積ですが、特筆すべきは、その標高差の大きさです。

旧首都コロンボを出発し、低地の紅茶産地、ルフナを回って、スリランカで最も標高の高い産地、ヌワラエリヤまでは車で約18時間の旅。立っているだけで汗が首をつたうほどだったルフナでの蒸し暑さは、なだらかな山に囲まれた盆地、キャンディを抜けたあたりでカラッとした暑さに変化。ヌワラエリヤに向け、さらに山道を上っていくと、肌寒いくらいに冷涼な風が吹き抜けます。

その気温変化の激しさたるや、とても同じ島とは思えないほど。驚く私に、「この標高による気候の違いこそが、茶葉の風味を決めるポイントなんだ」とバイヤー。なるほど、だからスリランカの紅茶産地は、標高ごとに610m未満のローグロウン、610〜1220m未満のミディアムグロウン、1220m以上のハイグロウンと分かれていたのですね!

一つの島が包み込む複雑な地形と多様な気候が、個性豊かな紅茶の源――。セイロン紅茶の魅力を紐解くカギは、まさにここにありました。

個性きらめく5つの味わい

キャンディ

やさしい風味に「ほっ」 日本人好みの紅茶

今回、私たちはスリランカの5大産地を訪問。茶園関係者たちが見守る中、たくさんの紅茶をテイスティングするのは初めての経験です。そんな私の緊張を、一口でやさしく解きほぐしてくれたのがキャンディの紅茶でした。

ミディアムグロウンの代表産地であるキャンディの紅茶は、渋みが少なく、とってもマイルド。紅茶らしい芳醇な香りと、ほのかに香ばしい甘みが広がります。そのどこか懐かしい風味に、口に含んだ瞬間、「あっ、慣れ親しんだ紅茶の味だ!」と、思わず声を上げてしまったほど。

それもそのはず、キャンディの紅茶は、ブレンドのベースとして様々な場面で使われているもの。日本人が抱く「紅茶」のイメージに最も近い風味と言っても過言ではありません。

ちなみに、ここキャンディは、シンハラ王朝最後の都が置かれた美しい街。そして、セイロンで初めて茶の木が植えられた由緒ある場所でもあります。歴史に思いを馳せながら味わう茶園での一杯は、ロマンに満ちた至福の時間となりました。

ルフナ

南国の太陽が育んだ ミルクに合うコク

スリランカ南部に位置するローグロウン産地、ルフナ。日本ではあまり知られていませんが、中東やロシアで大人気の紅茶産地です。

灼熱の太陽が照りつける中、つづら折の山道を行くと、見えてくるのはなだらかな茶畑。とりわけ目を引くのは、茶畑の畝に青々と生い茂るヤシの木です。それはいかにもジャングルらしく、整然とした日本の茶畑を見慣れた私にとっては、衝撃的な光景! 茶樹に近づき、葉に触れてみると、とても大きくて肉厚。いきいきとした野性味を感じます。

その力強さは紅茶にも表れていて、コクのある味わいが印象的。それでいて渋みが少なく、飲み口は穏やか。ミルクと砂糖を入れると、驚くほどまろやかに。ミルクティー好きにはたまらない、クセになる風味でした。

ヌワラエリヤ

美しい高原リゾート 若草のような清々しい風味

ヌワラエリヤは、スリランカで最も標高の高い産地です(標高1800m)。そこは見渡す限り、緑一色! 山頂から麓(ふもと)までを埋め尽くす広大な茶畑を、霧が静かに包み込みます。

ヌワラエリヤの紅茶の魅力は、シャンパンにも例えられる高貴な香り。高原の冷涼な気候と、昼夜の寒暖差、日中の強い日差しといった気候条件が、ひときわ香り高い茶葉を育みます。

その若草のような清々しい香りと、心地よい渋み、黄金色の水色(お茶の色)は、インド・ダージリンの春摘み紅茶を思わせる爽やかさ。特に、旬を迎える1〜3月には、ダージリンファンも一目置く素晴らしい紅茶が作られています。

ウバ

世界三大銘茶の一角 今まさに風味は頂点へ

中央山脈の東側斜面に位置するウバは、ハイグロウンの名産地。インドのダージリン、中国のキームンと並び、世界三大銘茶に数えられます。

最大の特徴は、独特の香り。ミントのように爽やかな香気と力強い味わいは、他の紅茶では味わえない特別なものです。

その風味が最も強まるのが、南西モンスーンが吹く7〜8月頃。私たちが訪れた7月半ばは、丁度その真っ只中でした。中央山脈から吹き下ろすモンスーンは想像以上に強く、製茶場の窓を開けていると、あたりの茶葉を巻き上げてしまうほど。でも「この乾いた風が茶葉の身を引き締め、最高の紅茶を生むんだ。風味が最高潮に達するまで、あともう少しだよ」と茶園マネージャー。おいしいお茶ができることを祈って、私たちは茶園を後にしました。

ディンブーラ

爽やかな香り立ち ルビー色に輝く水色

ディンブーラは、中央山脈の西側に広がるミディアム〜ハイグロウン産地。北東モンスーンの影響を受ける1〜2月のクオリティーシーズンには、バラのような芳香を持つ優れた紅茶が作られます。

深いルビー色の水色からは強い味わいを想像しますが、飲んでみると香りと味が絶妙に調和した、親しみやすくオーソドックスな風味。口に含むと、爽やかな香りが立ち上り、すっきりとした快い清涼感が広がります。