ルピシアだより 2017年1月号
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お茶とお鮨 お茶とお鮨

お茶はお鮨の脇役?いえいえ、どんなお茶と一緒に味わうかによって、お鮨の良さが引き出され、一層おいしく楽しむことができます。食べ合わせの世界をのぞいてみましょう。

お鮨の歴史とお茶の役割

握り鮨やちらし鮨、巻き鮨、押し鮨など、様々な種類がある鮨は、日本が世界に誇る料理です。祝いの席に上ることも多く、ハレの日のごちそう。日本人の心を踊らせる、お鮨の起源を見ていきましょう。

時をさかのぼること千年以上、まだ冷蔵技術のなかった時代に、生魚の保存性を高めるために、塩漬けにした生魚をご飯につけて発酵させた「なれ鮨」を作っていたという記録が残っています。これは、滋賀県の琵琶湖一円で現在も作られている「鮒(ふな)鮨」のようなもので、鮨の原型といわれています。

江戸時代になると、酢が誕生し、その防腐作用を利用して「はや鮨」が誕生します。箱に酢飯を詰めて魚介を並べ、蓋で上から押しつける「箱鮨」がこれです。

握り鮨が登場するのは、江戸時代後期のこと。箱鮨よりも短時間で作ることができる握り鮨は、当時、江戸で屋台が流行していたことも相まって、あっという間に広まります。屋台で気軽につまめるファーストフードとして人気を博すのです。

さて、ここにきてお茶がお鮨と切っても切り離せないものになります。お鮨屋さんで現在もよく見かける、あつあつの粉茶がたっぷり入った分厚くて大きな湯飲み。これも屋台で生まれました。

人が入れ替わり立ち替わりやってくる狭い屋台で、お客さんに長居をされると困るので、お酒は出さない。代わりに、短時間で抽出できる粉茶を出します。オーダーを受けて握るので、鮨職人は忙しく、お茶が減るたびに湯飲みに注いでいては手間がかかります。そこで、お茶が冷めにくい分厚く大きな湯飲みでお茶を出すことになったのです。また、緑茶に含まれるカテキンの殺菌作用も無関係ではないでしょう。

この名残で、粉茶と大きな湯飲みが現在もお鮨屋さんのおなじみのアイテムとなったのです。

お茶とお鮨の相性

お鮨屋さんで出す飲み物が、お茶でなければならない理由はあるのでしょうか。東京・恵比寿で「鮨屋 小野」を営む、小野淳平さんにうかがいました。

小野さんは、「お鮨を食べた後に舌先に残る脂を取って、口直しをしてくれる点でお茶は最適」だと言います。緑茶に含まれるカテキンなどが脂を取り除き、魚のにおいを消し、次のお鮨へ進みやすくしてくれるのです。「魚にはそれぞれ個性があるので、口の中をリセットさせるためのお茶は必要なんです」と小野さんは続けます。

お鮨に緑茶が合うのは明らかですが、緑茶以外のお茶はどうなのでしょうか。

お鮨に革命を!

お茶と一概に言っても、緑茶や紅茶、烏龍茶、ハーブティー……とたくさんあるように、お鮨だってネタによって味わいは様々です。そこで、「この鮨ネタにはこのお茶が合う!」という食べ合わせを、お鮨一貫ごとに探ってみたら面白いのではないかと考えました。

小野さんにご協力いただき、お茶とお鮨の食べ合わせを実験すること複数回。試したお茶は20種類以上、お鮨は15種類に上りました。食べ合わせを行ううちに、お茶を合わせることで、お鮨だけで食べたときには感じられなかった味わいが生まれる組み合わせがあることを発見しました。

「お茶とお鮨が、それぞれの良さを引き立て合う、そんな組み合わせがあるなんて目から鱗です」と小野さんも感動しきり。お茶が魚の風味を打ち消すための脇役ではないと証明されたのです。

小野さんとルピシアがおすすめするお茶とお鮨の組み合わせは以下をご覧ください。新鮮な驚きと発見に満ちあふれた、食べ合わせの世界へ足を踏み入れていることに気づいていただけることでしょう。

お茶とお鮨の食べ合わせ お茶とお鮨の食べ合わせ
取材にご協力いただいたのは…
【鮨屋 小野】
檜の一枚板を使ったカウンターが目を引く、落ち着いた色調でまとめられた店内は、上質で洗練された雰囲気を醸し出します。小野さん自身が築地へ足を運び、厳選した旬の魚で握る江戸前鮨は、美食家たちをうならせます。

住所:東京都渋谷区恵比寿4-11-8 B1F
電話: 03-3441-5524
営業時間:18:00〜24:00/日曜休
メニュー:おまかせ ¥16,000(税抜)〜 他

お鮨全般に合うオールマイティ
繊細なうま味を引き立てる
しっかりした味を包み込む
お互いのおいしさ高め合う

お鮨に合うお茶を突き詰めた結果
たどり着いた新作ブレンド

数量限定、通販・一部店舗限定※

  • 鮨屋のお茶 釜炒り茶(50g袋入)
    宮崎・五ヶ瀬の興梠(こうろぎ)洋一さんが、こだわりの茶葉をブレンド。青々とした爽やかな香気が魚特有の雑味を打ち消し、うま味を引き立てます。
  • 鮨屋のお茶 烏龍茶(50g袋入)
    焙煎のきいた鉄観音をベースにした、しっかりとした味わいの烏龍茶ブレンド。まろやかな味わいと甘い香りの余韻で、お鮨が華やかな印象に変わります。
  • 鮨屋のお茶 棒焙じ茶(30g袋入)
    茎を使った焙じ茶を軽やかに焙煎し、ほのかに甘く香ばしい香りに仕上げました。すっきりとした味わいが、お鮨の濃厚な風味をやさしく受け止めます。
  • 鮨屋のお茶 ダージリン(50g袋入)
    軽やかで上質な春摘みをメインにブレンドしたダージリン紅茶。爽やかな香りが濃厚な風味の鮨ネタを包み込み、お互いの長所を高め合います。

美食の国パリがうなったお茶とお鮨の妙味

2016年秋、ルピシアパリ店のオープン3周年記念として、「お茶とお鮨の食べ合わせ」イベントを行いました。お客様やマスコミ関係者約100名をお招きし、「鮨屋 小野」の小野淳平さんの握るお鮨と、お茶の食べ合わせを楽しんでいただくイベントです。

お鮨のネタごとにお茶を変える提案に、「お茶はお鮨の脇役だと思っていましたが価値観が変わりました」「お鮨によって合うお茶が異なることに驚きました」などの感想をいただきました。釜炒り名人・興梠(こうろぎ)洋一さんの実演も行い、ご好評のうちに終了しました。

対談-2人の職人、パリでの挑戦

  • 小野:今回のイベントで、パリの方々の反応を目の前で見て、改めてお茶とお鮨の関係はおもしろいなと思いました。皆さん一貫一貫、時間をかけて、お茶と一緒に味わっていて感激しました。
  • 興梠:俺は2年前にもパリで実演のイベントをやったけど、お茶だけを飲んでもらうよりも、食べ合わせをやった今回の方が、お茶を感じてもらえた気がするよ。俺はフランスの硬水に負けなくて、鮨に合うお茶を、このイベントのために日本でブレンドして持って来たんだけど、小野さんは原料の調達からパリでしょう。
  • 小野:仕入れは大変でした。日本から魚を持って来られなかったので、全部こっちのマルシェで調達しました。
  • 興梠:フランスの材料で自分のイメージに近いものを出すには、相当な下準備がいる。小野さんを見てると、俺が畑を育てるのと同じように仕込みをしてるなと思った。地道で丁寧。裏側も見てほしいくらい(笑)。
  • 小野:日本で当たり前にやってることがいかに幸せか分かりました(笑)。
  • 興梠:ベストとは言えない状態から、引き上げるのが職人の力やもんね。自分も同じ。インドのダージリンで、現地の生葉で釜炒り茶を作った時のことを思い出したよ。
  • 小野:鮨は技術だけではダメで、魚、シャリ、技術がそろってはじめて完成するんです。
  • 興梠:小野さんの場合は、それにパフォーマンスも入るやろ(笑)。小野さんの手さばきに見入って、ショーウィンドウからフランス人がたくさん見とったもんね。
  • 小野:うれしくて手を振っちゃいました(笑)。鮨職人の日本代表だと思ってるんで。丁寧な仕事をして、海外のお客様に本物ってすごいと思ってほしい。
  • 興梠:パリでの鮨の普及に比べて、日本茶はまだまだだな。鮨にお茶は負けとる。釜炒りもそうだけど、蒸しの微妙な違いとかこだわりをアピールしていかないと。小野さんとイベントをやって、プロを見たなと思ったよ。
  • 小野:お茶と鮨、違うものだけど、一つの物事を追求してる職人同士、同じなんだなと思いました。

ルピシア パリ店のオープン三周年記念イベントの一環として、2016年9月8日・9日にパリ店で「お茶とお鮨の食べ合わせ」イベントを開催いたしました。