ルピシアだより 2018年8月号
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フランスのティザンヌ文化をもっと詳しく! フランスのティザンヌ文化をもっと詳しく!

WEB限定インタビュー

食後にはティザンヌ。これは大発見でした!

――パリでの生活も今年で17年。ハーブティーとの付き合い方について、当初は日本とフランスの文化の違いに驚かれたそうですね。

はい。日本ではお茶もハーブティーも、広く「お茶」という認識ですが、フランスでは全く別物です。紅茶や緑茶、烏龍茶のように、お茶の木(カメリアシネンシス)から作られるお茶は、フランス語に訳すと「thé(テ)」。ハーブティーのことは、「tisanes(ティザンヌ)」とはっきり区別して呼んでいます。

日本と一番違うのは、とにかくティザンヌが人々の生活に根付いていること。カフェやレストランのメニューには必ず何種類かありますし、友人宅でのディナーの後は、「カフェ(コーヒー)がいい人? ティザンヌがいい人?」と決まって聞かれます。これには、そうか食後にはティザンヌなんだなと大発見した気分になりましたね。

――確かに、日本とは浸透具合がだいぶ違いますね。

ええ。飲むだけでなく、料理などで使っている方もいらっしゃいますしね。以前アルザス地方で郷土料理のシュークルート(酢漬けキャベツ料理)をいただいたのですが、そのお店のシュークルートがティザンヌで調理されていると聞いて驚きました。一般的には白ワインを使うそうですが、ティザンヌで調理するとよりまろやかな、やさしい味わいになるのだとか。実際、本当においしいお味でした。

「自然」だから体にやさしい

――昔からハーブは薬として使われてきましたが、フランスでは、今もハーブで風邪の予防をしたり、病気を治したりといったことが一般的なのですか?

そうですね。フランスには「エルボリストリ」という薬草専門店があります。随分前ですが、一人目の出産後、免疫力が落ちてなかなか体力が回復できない時期に、エルボリストリで体に合うティザンヌを処方してもらった経験があります。その後も、春から夏に向けて元気でいられるよう、春の初めに1カ月間飲むティザンヌを処方していただいたこともありました。

――中村さんのまわりでも、健康のためにティザンヌを飲む方は多いのですか?

もちろん。やはりティザンヌは自然のもので、体に優しいという考え方が浸透しているからでしょう。エルボリストリだけでなく、スーパーでも手軽に買えますし、今はBIO(オーガニック)のものも充実しています。安心して飲めるというのは大きいと思いますね。

――最後に、中村さんお気に入りのティザンヌを教えてください。

個人的にはヴェルヴェーヌ(レモンバーベナ)やティユール(リンデン)、ミント、カモミール、しょうが、シトロネル(レモングラス)などが好きです。やはり夜に飲むことが多いのですが、日中、なんとなく体がすっきりしない時なども、ティザンヌを飲むと体が温まりますし、香りにも癒されて落ち着きますよ。

フランス人にとってハーブは生活の一部です

――ゴーティエさんは、普段からティザンヌ(ハーブティー)をよく召し上がるのですか?

もちろん。私も家族も毎日飲んでいます。日中はお茶が多いのですが、夕方から夜にかけてお茶からティザンヌへと徐々に変えていくんです。これは無意識に身についた習慣ですね。子どもの頃から曾祖母や祖母がティザンヌを飲んでいましたし、庭でハーブを栽培しているのを見て育ちましたから。私たち家族にとってティザンヌは薬のようなもので、当時から効能を意識して飲んでいました。

――実際、ハーブは古代から薬として利用されてきましたね。

ええ。1950〜60年代に薬物療法が全盛期を迎えるまでは、「エルボリストリ」という薬草店もたくさんありましたし、ハーブで養生する習慣は、フランスではとても日常的なことでした。例えばティユール(西洋菩提樹、リンデン)は、フランスのティザンヌを象徴する木です。かつては多くの家庭でティユールを育てていて、今でも庭にある家はいくつもあります。知らず知らずのうちに、フランス人にとってハーブは生活の一部になっているんですね。

――家庭料理でもよくハーブを使うのですか?

その通りです。例えば、ポトフなど典型的なフランス料理にはクローブが入っていますが、これは香り付けのためであるとともに、自然の防腐剤としての役割も果たしているんですよ。

若い世代が注目

――フランスでは、最近どんなティザンヌが流行しているのですか?

ハイビスカスやルイボスなどがそうですね。ハイビスカスは元々アフリカが原産。ヨーロッパでは栽培されていなかったのですが、今では多くの人が知るグローバルなハーブの代表です。ルイボスもフランスに渡ってきたのは70年代のことですが、今では一般的に飲まれるようになりました。風味豊かでおいしく、砂糖やカフェインが入っていないといった理由から、若い世代の人々がティザンヌを好んで飲んでいます。最近ではティザンヌの若い生産者も増えているんですよ。

――フランスで今、それほどティザンヌへの関心が高まっているのは何故でしょう?

やはり食べ物こそが最良の薬なのだと人々が気づき始めたからでしょう。健康食品への関心がフランス全土で高まっていますが、ティザンヌもその一つ。瞑想やアジア文化に影響された健康法など、特定のライフスタイルと結びついて、近年、特にティザンヌが親しまれるようになっているのではないでしょうか。

太陽を求めて、みんなプロヴァンスを目指すんです

――ゲラールさんは、ティザンヌ(ハーブティー)について、どんなイメージを持っていますか?

子どもの頃、病気になった時によくカモミールを飲んでいた記憶がありますね。今は、夜寝る前にヴェルヴェーヌを飲むことが多いです。フランスでは友人の家に夕食に招かれることが多くあるのですが、アペリティフ(食前酒)から始まって、魚料理なら白ワイン、肉料理なら赤ワインと、食べたり飲んだりをたくさんするんですね。そしてうちに帰る前、最後にティザンヌを飲んでちょっと心を落ち着かせるんです。

――食後のティザンヌのおかげで気持ちも落ち着いて、スムーズに眠りにつけると。

ええ。でも、私よりもっと上の世代、例えば祖母の世代では、ディナーの最後にはコニャックやカルヴァドスのようにアルコール度数が高く、甘いお酒が飲まれていたんですよ。

――ええ!? 最後もお酒、しかも強いお酒で締めるんですか。

これはデジェスティフ(食後酒)といって、消化を促してくれるものなんです。でも世代が変わって、コニャックなどはあまり飲まれなくなりました。人々がより健康に敏感になっていることに加えて、飲酒運転に関する意識が高まっていることも背景にあるのでしょう。フランスではアルコール血中濃度が0.5mg/ml未満ならば運転してもよいことになっています。昔はもっと基準が緩かったのですが、飲酒運転の取り締まりが年々厳しくなっています。こうしたアルコールリスクの考え方も、ティザンヌが好まれるようになった理由の一つと言えるのかもしれません。

「人生」を楽しむのがヴァカンス

――ルピシアではこの夏、「プロヴァンス」という名のティザンヌを発売します。フランスの人々にとって、プロヴァンスという土地はどんなところですか?

プロヴァンスと聞いて私たちが思い浮かべるのは、太陽であり、海や山。そして、あの独特の香り……

――香り?

そう。プロヴァンスをドライブしていると、ラベンダーやタイム、ローズマリーなどの爽やかな香りに包まれて、とっても気持ちがいいんです。あとはやはり、ヴァカンスですね。ヴァカンスが始まる7月1日には、みんな太陽を求めて北から南へ移動します。実は私も、今年の夏はプロヴァンスで過ごす予定なんですよ。

――どうしてみなさん、太陽を目指すのでしょう?

本能的なものでしょうね。みんな太陽のもとで自分をさらけ出すんです。フランス人にとって、ヴァカンスは何より大事な休息の時間。家族と一緒に、1〜2カ月の休暇を過ごします。本を読んだり、自然や文化、芸術に触れたり、懐かしい友人と再会したり。生活のリズムをいつもと変えて、人生を楽しむのがヴァカンスです。そんな時に太陽があるのとないのとでは全然違うでしょう? 夏の間、プロヴァンスにはほとんど雨が降りません。行けば必ず太陽に出会える。だから人々は、プロヴァンスを目指すのではないでしょうか。