ルピシア グルマン通信12月号 Vol.88 ルピシア グルマン通信12月号 Vol.88
北の大地が育んだ 羊の文化 北の大地が育んだ 羊の文化

ジンギスカンに代表される北海道食材で、世界的にも牛肉や豚肉よりも食されている羊肉。食わず嫌いで済ませるにはモッタイナイ、おいしい羊メニューをご提案します。

日本の羊飼育の始まり

北海道と羊の本格的な出会いは明治8年(1875)、お雇い外国人の一人、エドウィン・ダンがアメリカから羊を連れて来たことに始まります。ダンは当時の酪農の最先端技術をもたらした北海道の酪農の西欧化に貢献した恩人。“Boys, be ambitious!(少年よ 大志を抱け)”で知られる札幌農学校(現・北海道大学)の初代教頭ウィリアム・スミス・クラークも厚い信頼を寄せた人物でした。

明治9年(1876)、ダンは真駒内(まこまない)に牧羊場を設置、羊の飼育技術の普及に努めます。当時の羊の飼育の主な目的は羊毛を取ることでした。残念ながら、ダンの奮闘空しく、病気などの問題で明治政府は羊の飼育を断念。羊毛は海外からの輸入に頼ることとなります。

やがてヨーロッパで第一次大戦が勃発。イギリスが羊毛の輸出を禁止したため、日本はふたたび羊の飼育の必要に迫られ、北海道はその中心的役割を担うことになります。大正7〜8年(1918〜1919)、空知(そらち)の滝川(たきかわ)、札幌の月寒(つきさむ)に種羊場ができ、各農家でも羊を飼うことが推奨されました。農家の女性は羊毛を紡ぎ、家族の衣類を編んだり、紡いだ糸を布に織り上げ(ホームスパン)、洋服に仕立てたりと、羊毛は農家の良い副収入となりました。日本の羊の飼育数が最も多かったのは昭和30年代初頭、全国で約100万頭、その半数以上が北海道で飼育されていました。

昭和25年(1950)、大きな転機が訪れます。羊毛の輸入規制が廃止され、海外から安価な羊毛が大量に輸入されるようになります。さらに化学繊維の普及が追い打ちをかけ、日本の羊産業は壊滅的な状況に陥りました。

羊毛産業が衰退する一方、羊の様々な活用法が試されました。羊の脂を使った石鹸やろうそくが作られ、そして羊をおいしく食べようという動きが現れます。

ジンギスカンの登場

北海道で羊が食べられるようになったのは大正時代のこと、当初は独特な風味に好き嫌いが分かれたようです。昭和6年(1931)発行の『綿羊と其の飼ひ方』という本の中には羊肉をタレに漬け込み、焼く「成吉思汗(ジンギスカン)」なるレシピが登場します。昭和11年には札幌・狸小路にジンギスカンの店が登場。昭和28年(1953)には月寒に会員制の「ツキサップ成吉思汗クラブ」が発足。こうして、羊の肉はジンギスカンという料理を介して、北海道の人々の間に急速に広まり、北海道を代表する食材の一つになりました。

陶芸と羊の工房

ヴィラ ルピシアのあるニセコ周辺でも稀な小規模にこだわり羊を飼う「FAF工房」の林雅治さん、幸子さんご夫妻。古い校舎をアレンジしたアトリエ兼ギャラリーにお話を伺いにお邪魔すると校庭の隅の囲いの中に10数頭の羊が元気に鳴いていました。

「京焼きの伝統を踏まえ、北の風を感じながら作陶をしたい」と林さんご夫妻がニセコへ移住されたのは1990年のこと。暮らし始めて間もなく「最初は草刈機のつもりで」と2頭の白い羊を飼い始めました。「とてもおいしいよと譲り受けましたが、ペットだから絶対に食べない! なんて言っていました」と笑う幸子さん。3年ほど経過したころ、その羊を食べる機会がやってきます。1歳未満のラム肉じゃないからおいしくないと思って食べた羊が「高級牛肉よりおいしかった」という体験をした林ご夫妻。羊の数を徐々に増やし、現在は60数頭の羊を飼育しています。

「羊にはさまざまな品種があり、味の特徴も違います。牧場によって飼う品種に特徴があり、味も違い、お客様は自分の好みの羊肉を食べられるようになったらいいなって思います」と語る雅治さん。作陶のかたわら、「FAF工房」ならではの羊を育てることに日々心血を注いでいます。

ヘルシーな食材、羊肉

近年、日本でも人気が高まる羊肉。ヨーロッパでは子羊の肉は牛肉よりも高級な食材です。栄養価が高く、ミネラル分が豊富な羊肉。さらに、脂分が溶けにくく、コレステロール値も魚並みに低い、ダイエットにも適したヘルシー食材としても注目を集めています。ちなみに、羊の肉は体を温める作用があると言われ、中国やモンゴルなど、寒冷地では冬に欠かせないメニューとなっています。

これまでもご好評をいただいてきたグルマン通信の羊メニュー。今月はヴィラ ルピシア レストランの植松シェフがどうしても使ってみたかったという「FAF工房」の羊肉を、ハンバーグにして皆様にお届けします。また、北海道を代表するメニュー、ジンギスカンは北アフリカで生まれた唐辛子のペースト、アリサという調味料をプラスする新しい味わいをご提案。しっかりと食べ応え充分の羊肉の餃子や、羊肉の腸詰のメルゲーズ、大好評の羊肉飯(ヤンローハン)など、個性的でおいしい羊料理も目白押しです。

寒い冬に体も心も温まるヴィラ ルピシアの羊料理をどうぞお楽しみください。

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