ルピシア グルマン通信6月号 Vol.92 ルピシア グルマン通信6月号 Vol.92
香りと料理のおいしい関係 香りと料理のおいしい関係

今月からグルマン通信に頼もしい仲間、ハーブ研究家の狩野亜砂乃(かりのあさの)さんがアドバイザーとして参加します。 狩野さんはハーブやアロマ、香りを通じて、生活を楽しく、豊かにするスペシャリスト。さて、植松シェフと、どのようなコラボレーションを見せてくれるでしょうか。

ハーブとの出会い

植松狩野さんも僕と同じ、札幌生まれですね。

狩野はい、私の実家は札幌市郊外の山に囲まれた場所にありました。季節ごとの山菜やキノコを採りに行き、それを塩漬けにして食べる。牧場に牛乳を買いに行き、バターやチーズを作るというような家庭でした。小さなころからずっと香りのある植物に強く興味を持っていたのですが、ある日、ドライブ中に偶然ハーブと出会いました。まだハーブなど取り扱う店もなく、どこへ行けば入手できるかもわかりませんでした。当時、私は勤めていたのですが、とりあえず自宅の庭で香りのある植物を育てることにしました。働きながらの庭作りで、たくさん失敗もしましたが、どんどん楽しくなっていって、次第に他所(よそ)の庭の監修や造園を手伝うようにもなりました。

植松どうやってハーブを学んだのですか?

狩野毎日毎日が試行錯誤の繰り返しです。たくさん失敗もしましたよ。でも、その失敗から大切な情報やアイデアを学びました。当時はハーブの本といえば外国のものしかありませんでしたから、その本の通りに料理を作ると日本人にはキツ過ぎたりするんです。香りが強すぎるとか、クセがあるとか、誤ったレッテルを貼られてしまいがちで。そのレッテルを剥がし、「こんなにおいしいよ!」って伝えることに熱意を感じてしまったんです(笑)。ところで、料理人の方々はどのようにハーブの使い方を学ぶのですか?

植松やはり最初は本などを読み、基本を覚えますが、だんだん自分なりのハーブ使い、組み合わせの妙というのが出来上がります。こればかりは日々試しながら発見していくものです。本格的にハーブの魅力がわかってくると、売っているものでは物足りなくなる。若いころは江別市(札幌市近郊)でハーブを栽培している農家さんにお世話になりました。ここでフレッシュハーブをフレッシュなまま使う贅沢を知りました。使いたい時に、使いたいハーブがフレッシュな状態で手に入る。これは料理人にとって幸せなことですね。ドライとフレッシュは別のもので、フレッシュハーブならではという料理もあります。

狩野たしかにフレッシュハーブの香りって素晴らしいですよね。私もできればフレッシュを使いたいと思ってしまいます。

香りと料理の関係

植松狩野さんはアロマにも詳しいですが、ハーブとの違いは?

狩野100%植物由来のエッセンシャルオイルは効能が凝縮されていて、香りがダイレクトに体に届きます。香りでリラックスできたり、やる気が起きたり、体のスイッチが切り替わっていくような感じです。ハーブを使ったお料理で同じことができたら最高ですよね。アロマとハーブとお料理が繋がっていることを実感した時、とても感動しました。

植松香りにより体のスイッチが切り替わるというのはおもしろい表現ですね。料理の場合は変化といった方がいいかもしれませんが、単調にならないように香りで変化をつけるというのは料理の手法の一つです。前菜ではフレッシュな香りを、メインではさらに深い香りをと、料理にメリハリをつけることは自然にやりますね。

狩野さんの庭

植松狩野さんのお宅の庭では、どのくらいのハーブが植えられているのですか?

狩野細かな品種も数えると一番多い時で200種類くらいはあったと思います。新しい品種などを見つけると、どうしても試してみたくて。でも、中には使わないハーブも出てしまうので、最近は150種類くらいでしょうか。

植松雪が解けるとすぐに種や苗を植えるのですか?

狩野はい、植えられるものからどんどん植えていきます。でも寒さに弱いものは、あまり早く植えると5月下旬ごろ、リラ冷え(※)でダメになってしまうものも。そういう品種はリラ冷えを過ぎた、北海道神宮の例祭の頃、6月中旬頃にタネを蒔くようにしています。

植松まさに「種蒔き鳥」、カッコウの声を聞いてからですね。

狩野はい、この辺は札幌といっても郊外ですから、カッコウはもちろん野鳥も多いんですよ。それから緑の季節はものすごい速さでやってきます。緑に囲まれると気持ちも癒やされ、生きているなぁって感じます。


※北海道ではリラの花が咲く頃(5月下旬)に、急に冷え込むことをこう呼ぶ。リラ(ライラック)は札幌市の木に指定されている。

既成概念を外す

植松狩野さんはハーブをブレンドしますよね?

狩野はい、ハーブは単品で使うより、ブレンドをすると楽しさが広がります。たとえば、家庭で毎日料理をする女性は献立を考えるのが大変なんですよね。そういう方々が何か新しい刺激やヒントを求めて私の講座にいらっしゃいます。ハーブは難しい知識ではありません。Aの食材には、Bのハーブ……という既成概念を外して、もっと自由にハーブを楽しむ。おいしいことが正解ですから、肩の力を抜いて、自分の味覚に自信を持とうと提案しています。

植松それはおもしろいですね。料理人でも、意外な発見は少なくありません。たまたま口にした2つのものが、予想外にマッチングする。狙ったわけではなく、あれっ?という発見や再確認があったり。そこから料理ができることもあります。お話を伺ってとても刺激を受けました。狩野さんの提案をどのようにメニューに落とし込んでいくのか。僕にとっても新しい挑戦です。どうぞよろしくお願いします。

狩野こちらこそ、よろしくお願いします。