ルピシア グルマン通信8月号 Vol.94 ルピシア グルマン通信8月号 Vol.94
北海道のパワフル夏野菜 北海道のパワフル夏野菜

今月は皆さまお待ちかね、夏のカレー特集です。昨年、大好評をいただいた本特集。今年はよりバージョンアップしてお届けします。暑い夏を爽やかな辛さとおいしさで乗り切る、ニセコの「夏カレー」をお楽しみください。

夏のニセコは野菜天国

「ニセコの夏は本当に野菜がおいしくって、料理のしがいがあるんですけど、難点がひとつ。それは同時期にいろいろな野菜がおいしくなってしまうので、なにを使おうか、迷ってしまうところなんです」と語る『ルピシア グルマン』の植松シェフ。植松シェフは毎年、夏になると地元ニセコ産の素晴らしい夏野菜を前に、うれしい悲鳴を上げていると言います。

「夏野菜の代表といえばナス、ズッキーニ、それにトマトなどですが、普通の街の料理人であれば、その日に使うベストな状態のトマトなんて1種類なのが普通です。それがニセコでは、ベストの状態のトマトが何種類もある。品種が違えば、味や酸味、果肉の特性も違います。それぞれのトマトのコンディションに合わせて、複数のトマトメニューを考えるなどということもできてしまいます」

今月の特集に際し、植松シェフはこれまで料理してきたニセコの夏野菜の数々をあらためて思い浮かべ、カレーとニセコの夏野菜の新しい可能性を考え直しました。

「暑い夏にしっかりとスパイスの効いたカレーを食べたい。それに負けない夏野菜を組み合わせてみたい。スパイスに負けることなく、しっかりとした野菜の風味を生かす。それがニセコの夏野菜でしか味わうことができない、ニセコの夏カレーです」

ニセコらしいトマトを求めて

「とってもいい匂いがしますね。僕はトマトのヘタの匂いが大好きなんですが、それは葉っぱの匂いなんですね。爽やかなハーブのような香りがします」と、トマト栽培のハウスの中で上機嫌の植松シェフ。この日訪問したのは、ニセコ町元町地区でトマト栽培を手がけている坪井広幸さんの農園。ルピシアグルマン ニセコ工場内の植松シェフのキッチンから車で5分とかからない“ご近所”の農園です。坪井さんの農園にお邪魔してまず驚くのが、栽培用ハウスの大きさです。

「このハウスの全長は約100m。このようなハウスが20棟ほどあります。ウチはニセコの中では比較的大型のトマト農家です。祖母と親父で大きくしていった農園を引き継ぎ、現在のような規模になって20年ほどになります」と坪井さんは長く大きなハウスを見渡します。

植松シェフが坪井さんのトマトを知ったのは昨年のこと。その出会いを植松シェフは熱く語ります。

「実は、いわゆる大玉のトマトって、あまり特徴を感じることがなかったんです。でも坪井さんのトマトを食べて、『えっ、違うんだ!』って驚きました。味が濃く、食感がいい。今年はどうしても使ってみたいと思い、お邪魔しました」 現在、坪井さんの農園で栽培されているトマトは「りんか」、「有彩(ありさ)」、それに「パルト」の3品種。

「どんな品種でも栽培できるというわけではありません。品種と土が合わないとおいしくなりませんし、コクも出ません。北海道では馴染みが薄いかもしれませんが、『りんか』は昔からウチで作ってきた品種です。味が濃く、甘みと酸味のバランスがいい。少し手間がかかるのですが、自分たちもおいしいと思っているので作り続けています。『有彩』や『パルト』は日持ちに優れた品種で、味はあっさりしています」と坪井さんは優しい眼差しでまだ青いトマトを見つめます。

「いいですね。ニセコらしいトマトを使いたいと思っていたので、ありがたいです。ぜひ種類の違う、味も風味も違うトマトを組み合わせて料理してみたいですね」と意欲を燃やす植松シェフ。坪井さんのトマトを目の前に、料理のアイデアが膨らんでいる様子です。

シェフの新しい挑戦

今回、植松シェフのもうひとつの挑戦が「摘果(てっか)メロン」を使ったカレーです。「摘果」とは成長途中で果実を間引くこと。「摘果メロン」はメロンの品質を高めるため、間引かれたメロンのことです。そのまま食べるのではなく、素材として塩漬けや調理をして食べることが、近年、注目されています。

「本来、はぶかれてしまう素材にスポットが当たったところが面白いですよね。世の中に『キュウリカレー』なるものがあって、それがとてもおいしいと聞き、作ってみようと思ったんです。でも、そのままキュウリや、同じウリ科でもズッキーニを使うのは当たり前すぎるので、摘果メロンを使ってみたところ、おいしかった。これは新しい発見です。適度な果肉感のある、爽やかなカレーになりました」と植松シェフも満足そう。

この他にも焼きナスの香ばしい香りが印象的な「直火焼きナスカレー」、鶏肉の旨みをぎゅっと凝縮した「パキスタンチキンカレー」、トマトをふんだんに使った「北海道のトマトビーフカレー」と、いずれも植松シェフの自信作です。

「以前、あるトマト農家の方に聞いたことですが、トマトの栽培には土壌や水、肥料に加えて、太陽の光がとても重要なのだそうです。太陽の光をおいしさに変えて、その実に蓄える。だから、トマトは夏の太陽の味なんです。ニセコの夏の、この強い日差しがトマトをはじめ、たくさんの夏野菜をおいしくする。それらをふんだんに使った特別なカレー。あらためて、ニセコの素晴らしい環境に感謝したいですね」と語る植松シェフ。ニセコの夏のチカラとおいしさを封じ込めた、ニセコの夏カレー。ぜひご賞味ください。