ルピシア グルマン通信9月号 Vol.95 ルピシア グルマン通信9月号 Vol.95
夏の贈りもの、ニセコのトマト 夏の贈りもの、ニセコのトマト

夏のニセコは新鮮な野菜の宝庫。今月のテーマ、トマトを筆頭にナス、ズッキーニ、キュウリ、ブロッコリー、トウモロコシなどなど。今回はそんなおいしい夏野菜が集まるニセコのマルシェ(市場)『ニセコビュープラザ直売会』をご紹介します。

直売会の始まり

「今日の“ニセコ=おいしい野菜”というイメージは『ニセコビュープラザ』が作ったんじゃないでしょうか。世界中のお客様がニセコの野菜を食べにやって来るのですから」と語る「ルピシアグルマン」の植松秀典シェフ。朝、レストランに向かう途中、少なくとも週2、3度は野菜を仕入れに『ニセコビュープラザ』に立ち寄るほどの“ビュープラ通”です。

『ニセコビュープラザ』は、1997年、現在の場所に「道の駅」として誕生しました。その施設の一角に野菜の無人販売所が設置されます。参加したのはわずか7名の地元生産者。当初は規格外の野菜が置かれていたそうです。

その後、無人販売所は徐々に評判を呼び、『ニセコビュープラザ直売会』が組織され、2002年、売上げをレジで管理するようになると、参加生産者は60名を超えるように。「安心、安全、安価」をモットーに新鮮な野菜を提供するコンセプトが支持され、全国の「道の駅ランキング」の上位に選出される、ニセコ観光の拠点となりました。

「ここに来るとその時季のニセコの野菜が一望できるのがいいんですよね。商品にはすべて生産者の名前が貼ってありますから、長年通っていると、野菜と生産者の名前が繋がって見えます。トマトならAさん、ズッキーニならBさん、もちろん新しい発見もありますよ」と楽しそうに店内を歩く植松シェフ。通い慣れた売り場ですが、一般のお客様が賑わう季節には意外な苦労もあると言います。

「店内を一周してくると、目指す商品が売れてしまっていることがあります。といって、あまりたくさん野菜を抱えていると、ほかのお客様の厳しい視線を感じたり(笑)。『それ、どうやって食べるんだい?』なんて声をかけられることもありますよ」

絶え間ない努力

「その声をかけたお客様はラッキーですね」と笑うのは『ニセコビュープラザ直売会』のスタッフ、今北早織さん。「野菜ソムリエ」の資格もお持ちの今北さんが『ニセコビュープラザ直売会』に関わるようになって約8年。この間、たくさんの変化があったそうです。

「まず、取り扱う品種が増えました。トマトだって、現在のようにたくさんの品種はありませんでした。それと、お客様からの質問も細かくなっています。お客様自身が知識をお持ちなので、より高度な対応が求められていますね」

『ニセコビュープラザ直売会』が近隣の「道の駅」や農産物直売所と一線を画す特徴を植松シェフは「品種の多様性」だと指摘します。

「こんなに多品種の野菜が並んでいる直売所はなかなかありません。それを可能にしているのは各生産者さんの努力。店内を見回すと各々の生産者の棚には個性があって楽しい」と植松シェフ。

「おっしゃるとおり、誰かが新しいものを作ると、それを見て、ほかの人も作ってみる。そうした中で自然とよい競争が生まれて、どんどん品質が高まり、品種も増えていくのですね。なによりも生産者の皆さんの『もっとお客様に喜んでいただきたい』という気持ちを強く感じます」と今北さんは嬉しそうに語ってくれました。

ニセコのブランド力

「『ニセコビュープラザ直売会』で買ってきたよ、っていうと、受け取る側のテンションが違うんです」と言うのはハーブ研究家の狩野亜砂乃(かりのあさの)さん。仕事でニセコを訪れた際、お土産を探しに『ニセコビュープラザ直売会』に立ち寄ることが多いのだとか。

「そもそもニセコはリゾート的なイメージがあるので“ニセコ産ブランド”は魅力的です。私が暮らしている札幌市内のスーパーでも産地直送野菜の売り場は人気ですが、ニセコ産は見かけません。ニセコ産の野菜は特別なんです。このトマトだって“インスタ映え”しそうですよね(笑)。こうしたちょっと個性的な素材だと欲しくなる。いろいろな色のトマトがミックスされていたりすると楽しくなって、ついお土産にしてしまいます」と、テーブルの上に置かれた色とりどりのトマトに興味津々の狩野さんです。

お客様の声が原動力

わずか7名で規格外農産物の無人販売所からスタートし、全国屈指の人気スポットとなった『ニセコビュープラザ直売会』。その躍進の陰には、生産者の皆さんの前向きな努力がありました。その原動力を、植松シェフはこんな風に喩(たと)えてくれました。

「僕たち料理人も閉鎖的なキッチンで仕事をしているとお客様の反応がわかりませんが、オープンキッチンでお客様の顔が見え、声が聞こえると、俄然、やる気が出たりします。それと同じで、ニセコの生産者さんも、自分たちの野菜をお客様が手に取る場面を、直接目にすることがうれしく、励みになるんじゃないでしょうか。僕らと同じです。“おいしい”って言われたら、素直にうれしいんですよ」

夏のニセコは新鮮な野菜の宝庫。地域全体が、さながら大きなマルシェのようです。そしてその中心にしっかりと根付いた『ニセコビュープラザ直売会』は、今日もたくさんのお客様で賑わっています。