ルピシア グルマン通信10月号 Vol.96 ルピシア グルマン通信10月号 Vol.96
ホクホクの季節がやってきた ホクホクの季節がやってきた

今月のテーマは「ホクホクの季節がやってきた」。時はまさに“収穫の秋”。北海道ではジャガイモ、カボチャなどのホクホク野菜がおいしい季節を迎えました。今回は料理やスイーツで大人気のカボチャのお話をご紹介します。

冬の貴重な野菜

カボチャはウリ科の果菜で、アメリカ大陸が原産。日本への渡来には諸説ありますが、16世紀半ば、現在の大分県に漂着したポルトガル船が、現地の大名にカンボジアで採れた野菜を献上したのが最初だといわれています。この「カンボジアで採れた野菜」が訛って、カボチャと呼ばれるようになったとか。

北海道においても、明治時代、開拓使は積極的にカボチャの生産を奨励します。今日、北海道のカボチャ生産量は国内1位。国内生産量の約半数を占めるに至り、カボチャは北海道を代表する野菜の一つとなりました。

さて「冬至にカボチャを食べると風邪をひかない」という伝承をご存知の方も多いでしょう。カボチャはビタミンAを豊富に含む野菜。その昔は冬至(12月22日ごろ)まで保存が利く野菜はカボチャを含め、限られていたために、このような伝承が誕生したのではないかといわれています。カボチャは採れたてよりも、しばらく保存することにより、糖度が増し、おいしくなります。そんなことから、冬の野菜として珍重されたのでしょう。

余談ですが、近年、日本でも大いに盛り上がりを見せている秋のお祭り「ハロウィーン」のシンボルもカボチャ。ハロウィーンの起源はアイルランドのケルト民族の収穫祭。そもそも、その祭りのシンボルはカブ(蕪)でした。ヨーロッパからアメリカ大陸への移民により、ハロウィーンの習慣が伝わり、アメリカ大陸では、カブではなく、たくさん収穫されていたカボチャが用いられるようになったそうです。

ニセコでもお盆を過ぎると、駅前や道路の脇にたくさんのハロウィーンのカボチャが置かれ、町全体が華やぎます。

シェフが惚れ込んだカボチャ

今回、「ルピシア グルマン」の植松シェフがお邪魔したのは、ニセコ町近藤地区にある橋農園。大正時代、岩手県より初代が入植して以来続く、現在は4代目に当たる橋友和さんと妻の由理さんが切り盛りする農園。橋農園ではジャガイモ、豆類、トウモロコシを主力に、良質なカボチャを生産しています。

農園に到着後、倉庫内に置かれたカボチャの山を見つけ、早くもホクホク顔の植松シェフ。

「これこれ。今回はこのカボチャをまるごと使ってみたいと思って、橋さんをお訪ねしたんです」と、植松シェフが手にしたのは「坊ちゃん」という小振りの品種。横に並ぶ、一般的な大きさの「くりあじ」と比較すると、3分の1程度の重さです。

「『坊ちゃん』は収穫量が限られていますが、味が濃い、おいしい品種ですよね」と由理さんが言えば、「昨年は長雨の影響を受けましたが、今年は出来がいいですよ」と胸を張る友和さん。

カボチャは収穫した後、一定期間、乾燥させることで味が乗ってくるため、このように倉庫に並べているのだとか。

「収穫後、10日間ほど寝かせるでしょうか。一般の野菜は『採れたてです』って売りますが、カボチャは『しっかり乾燥させました』って売るんですよ」と笑う由理さんです。

現在、橋農園で栽培しているカボチャは小玉の「坊ちゃん」、中玉の「くり姫」、大玉の「くりあじ」、そして白い色が特徴的な「雪化粧」の4種類。すべてのカボチャは、ひとつひとつ手作業で収穫されるそうです。

「収穫は2、3人が一組になって、すべて手作業です。手渡しができる距離ならいいのですが、少し距離が開くと軽く投げることもあります。『坊ちゃん』のような小さなものはいいのですが、4キロのカボチャをキャッチするのは大変です」と由理さん。仙台出身の由理さんがニセコの農園へ嫁いで約10年。「まだまだ勉強中です」と謙遜されますが、おしゃれなアウトドアウェアを作業着に働く姿はすっかり堂に入ったものです。

おしゃれなメインディッシュ

どっしりと重量があり、表皮の硬いカボチャですが、見た目とは裏腹に繊細な野菜だと植松シェフは言います。「カボチャは収穫後、しっかり熟成させないとまるでおいしくありません。ですが、まだ大丈夫と思っていると意外に“足が早い”。カボチャは神経質で繊細。実に取り扱いが難しい野菜です。ですから、いかにおいしいタイミングを見計らって調理するかがポイントになります」

甘く、ホクホク感が人気の秋を代表する野菜、カボチャ。その見た目から粗野な野菜と捉えがちですが、実は繊細。今回はカボチャの新しい一面を紹介したいと植松シェフは言います。

「今回はこの“野暮ったい子”にしっかりとおしゃれをさせて、テーブルのセンターを飾るメインディッシュにふさわしい料理に仕立てます。カボチャの新たな可能性に挑戦します。ぜひ楽しみにしていてください!」