ルピシア グルマン通信12・1月 合併号 Vol.98 ルピシア グルマン通信12・1月 合併号 Vol.98
ニセコ料理の未来 ニセコ料理の未来

今号のテーマは『ニセコ料理の未来』。北海道産の旬の食材をフィーチャーし、毎月さまざまなメニューをご提案してきた『ルピシア グルマン』の植松シェフが過去のメニューを振り返るとともに、『ニセコ料理』のこれからについて語ります。

「とてもたくさんのメニューを作ってきたなぁ……というのが正直な感想です」と、京都で開催されたルピシアの試飲イベント、グラン・マルシェからニセコへ戻ったばかりの植松シェフは少々感慨深そう。

「グラン・マルシェで、直接、お客様と接する機会があり、お客様から「あれはもう作らないの?」などと、いろいろなお声をいただきました。あらためて愛されているメニューの多さに感激しましたね」

植松シェフは、早速、過去のメニューを振り返りました。

「ご好評をいただいているメニューのほかに、『あのメニュー、もう少し手を加えて、復活させたいなぁ』なんて、個人的に思うものがたくさん出てきました。“原点回帰”ではありませんが、今月はそうしたメニューを構成し直してみたいと思ったんです。言うならば『ニセコ料理』の“おさらい”でしょうか」

植松シェフがグラン・マルシェの会場で印象に残っているのが、多くのお客様が商品の品質表示を確認されている光景だったとか。

「ひとつひとつ、しっかりと品質表示を確認されているのを見て、お客様の意識の高さ、お客様が安心して食べられるものが求められていることを強く感じました。何か尋ねられれば『僕が選んだ良質な素材で全部作っていますから、安心してください』とお答えできることはとても誇らしいことです。これまでやってきたことは間違っていなかったと確信しました」と語る植松シェフです。

反省と改善

一方、「これまでの活動には反省すべき点や改善すべき点もあります」とも言う植松シェフ。それはどのようなことでしょうか。

「『北海道の食材を調理して、全国へお届けする』というコンセプトは今後も変わらないと思いますが、改良していきたい点はまだまだあります。

まず、旬の素材にこだわることで大量生産できないという問題がありました。『数量限定』とか、すぐに欠品してしまったり。こうした問題を少しでも改善したい。さらに、これまで『使い勝手』への配慮が不足していました。例えば、女性一人でも楽しんでいただける『量』に配慮したメニューとか。また、『日常食』であれば、すべてが『特別なごちそう』でなくてもいいのではないかとか。日常的には『カンタン』がキーワードじゃないかと思うんです。それと『1人前』。今日の気分で選べる、とか。そうしたニーズにも、今後、お応えしていきたいですね。

また、これまで商品を湯煎していただくなど、お客様に手間をおかけしていました。これを電子レンジで調理できるようにすれば、さらに手軽においしい料理を楽しんでいただくことができます。『レストランの味をお客様の自宅の食卓へ届けたい』という願いに変わりはありませんが、ご家庭でもっと手軽に食べていただく工夫を心がけていきたいですね」

ニセコ料理の未来

さて、植松シェフが追求してきた『ニセコ料理』ですが、今後、どのようなものになっていくのでしょうか。

「これまでも『ニセコ料理』の定義をずっと考えてきましたが、まだ明確な答えは得られていません。現時点で、誤解を恐れずに言うなら『がんばらない料理』かもしれないと、最近、思うようになりました。例えば、田舎のおばあちゃんの料理はおいしいと思いませんか? 愛情はたっぷり込められているけれど、頑張ってないんです。自然体で作ったものが、おいしくて、体にはいいのかなぁって思います。

『最高の素材、最高の調味料、最新の情報』って、すべてが最高や最新であるなら、それは都会、要するに東京でいいことになってしまうのではないでしょうか。

ニセコのおいしい食材を使った、ニセコでしかできない料理。今はまだ『素材がおいしい』という段階かもしれません。それを進めて『ニセコの料理は素材をそのまま食べるのと同じくらいおいしくて、自然に体に取り込まれていくよ』というような料理を作りたい。これまでも、そしてこれからも、それを目指して、毎日、料理することが、料理人としての僕のやり甲斐なのだと思います。

ニセコは畑からテーブルまでの距離がとても近い。これは都会では真似できないこと。ですが、あまりに状況が恵まれ過ぎて、それに甘えているのではないか。普通に料理していたら、普通においしくなる。でもゴールはそこではない。そのことをこれからも常に見つめ直し続けていきたいですね。

足すでもなく、引くでもなく。むしろ、素材とイコールのおいしさ。もちろん、いくらおいしいからといって素材をそのまま出したら料理人として芸がないのですが、素材の持つ最初のおいしさから、何も抜け落ちてない。不要なものは省き、おいしさだけが残る。そういう料理を目指していきたい。それが『ニセコ料理』が目指す方向ではないかと考えています」

おいしい食材と同じくらいおいしい料理。安全、安心で体に優しい、お客様に愛される『ニセコ料理』を創造する。植松シェフの挑戦は続きます。