自然栽培への取り組み
猪狩和大さんは『猪狩農園』の4代目。ニセコで生まれ育ち、高校卒業後、一度ニセコを離れますが、2012年30歳のとき、実家の農業を継ぐためにニセコへ戻りました。以来、父・一郎さんの指導の下、米作りに取り組んでいます。
『猪狩農園』は北海道の厳しい品質基準「YES! clean」を取得する良質なお米の生産者。「YES ! clean」は北海道全体で取り組んできた「クリーン農業」を土台として、農薬や化学肥料の使用を削減した、厳しい基準を満たして生産された農作物に与えられる品質表示です。一方、和大さんは就農した翌年から自然栽培(無農薬、無肥料栽培)に興味を持ち、取り組むようになります。
「周囲の皆さんは難しいと言いましたが、正直、もう少しできると想像していました。自分自身、経験が浅かったからやってみようと思えたのでしょう。実際にはそんな簡単なことではありませんでした」
現代の稲作は安定した収穫が得られる一定の技術や資材、「YES! clean」のような品質基準が確立されています。しかし自然栽培でお米を作るということは、苗床の土からすべてを自分で作るような手間のかかる作業でした。
「市販の土には微量でも化学肥料が含まれているので使用できません。かといって、ただの土では苗が育たない。有機肥料を加えたら、今度は肥料が多かったなどと、失敗の連続でした。山から採取してきた土に糠(ぬか)や籾殻(もみがら)などを加えた土でようやく満足に苗が育つようになり、普通に田植えをして、収穫できるようになるのに6年ほどかかりました」
当初より、収穫量は厳しいと覚悟していたものの、主力で栽培している「YES ! clean」米の半分、その翌年はその半分と収穫量が徐々に落ちてしまったといいます。
「とにかく手間がかかります。除草作業に手が回らなかった年の収穫量は散々でした。現在、苗作りまではできるようになったので、次は畑の土壌作りが必要だと考えています」
ここまで熱心に和大さんの話に耳を傾けていた植松シェフがおもむろに口を開きました。
「お話を聞いているだけで自然栽培のご苦労が伝わってきます。手間やコストがかかった分、高価になることは理解できますし、実際、市場に出回っている自然栽培米は高価です。それでもそれを求めているお客様は少なくありません。今後、生産量を増やす予定はありますか?」
「いや、今すぐには難しいと思います。例えば、今の農園の体制では除草作業が間に合いません。それでは満足な量の収穫は得られません。
最近、ある本で雑草にも意味があると知りました。雑草の中にも土壌を良くするものもあるそうです。そうしたことも含め、これから学ばなければいけないことはたくさんあります。幸いニセコにはユニークな取り組みをされている先輩生産者の方々がたくさんいらっしゃいます。そうした方々との関わりは勉強になり、励まされます」