この日、ヴィラ ルピシアの植松シェフが訪ねたのはニセコ町近藤(こんどう)地区の『久保(くぼ)農園』。こちらの久保正人(くぼまさと)さんは北海道開拓農家の3代目、お祖父様が福井県からニセコ町のお隣・真狩(まっかり)村に入植。その後、お父様の時代に狩太(かりぶと)町(現在のニセコ町)へ農地を広げました。現在、久保農園では豆類のほか、ジャガイモ、トマト、トウモロコシ、ブロッコリーなどを生産しています。
久保農園に到着すると、まさに畑を耕す作業の真っ最中。植松シェフが車から降り「こんにちはー!」と作業中の久保さんに声を掛けると、久保さんはトラクターから降りてきてくださいました。
「ウチで栽培している豆類は黒大豆が『祝黒(いわいくろ)』と『黒千石(くろせんごく)』。普通大豆が『豊娘(とよむすめ)』と納豆大豆。それに小豆も入れれば5種類。収穫量が一番多いのは『祝黒』です」。祝黒は黒大豆の中でも大粒で甘みが強いのが特徴。主に煮豆に用いられてきましたが、最近ではその甘さを生かして豆腐や納豆にも使われています。
『久保農園』では、毎年5月から6月上旬までに約40ヘクタールの畑に種蒔きをし、7月20日過ぎに花が咲きます。この時期に天候に恵まれると良い豆に育つのだとか。花の付け根にサヤができ、膨らんでいき、豆の粒はその中で生長していきます。やがてサヤが色づくと間もなく収穫。収穫は早くても10月10日ごろ。多くは雪が降る前、天気を見ながら、ギリギリまで待って、いっきに収穫します。
「雪に当たると水分が戻るのでいけません。『凍れ乾き(しばれかわき)』と言って、冷たい北風が吹くような日が最適です。黒大豆は育成に時間がかかるので、昔はこの辺りでは栽培できませんでした。それが可能になったのは機械で収穫できるようになったお陰です。その代わり『ニオ積み』は見られなくなりましたけど」
「ニオ積み」とは、収穫した大豆や小豆を枝ごと円筒形状に積み上げ、畑で自然乾燥させる独特の方法。畑にニオ積みが並ぶ光景は北海道の秋の風物詩だったそうです。
「他所様の豆を食べたことがないからわからないですけど(笑)。ニセコの豆は風味がいいって、よく言われますよ」と、久保さんは祝黒を愛おしそうに手に取り、こう答えてくださいました。