ルピシア グルマン通信6月 Vol.110 ルピシア グルマン通信6月 Vol.110
季節の山菜 〜対談 料理と漢方の共通点〜 季節の山菜 〜対談 料理と漢方の共通点〜

毎年、長く厳しい北国の冬が終わり、雪を割って芽吹く季節の山菜を心待ちにしている「ルピシア グルマン」の植松シェフ。今日はちょっと違った視点から山菜を学ぶため、札幌市白石区にある「中村薬局」の中村峰夫さんをお訪ねしました。中村さんは漢方や生薬にも精通した管理薬剤師。現在、「ルピシア グルマン」の顧問として、メニュー開発などにご協力いただいております。料理人と薬剤師、さてどのようなお話になりますか!?

漢方との出会い

植松シェフ:今日は何気なく使っている山菜について、漢方的な視点でのお話を伺いたくてお訪ねしました。そもそも薬剤師である中村さんが漢方を扱うきっかけを教えていただけますか。

中村さん:私は大学で「薬を飲めば病は治る」と教わり、自分でもそう信じていました。やがて卒業し、薬剤師として患者さんと接する中で、予想外に、そうではないことがわかってきました。ある時、長年リウマチを患い、病院の医師が処方する薬を飲み続けても、一向に容態が改善しない患者さんと出会いました。私自身「何かがおかしい」と感じ、ひょっとしたら違うアプローチもあるのではないかと、漢方の勉強を始めました。そして、その患者さんに漢方薬を処方したところ、症状が改善したのです。

植松シェフ:それは驚きです。

中村さん:私も驚きました。この時「教科書に書かれているものがパーフェクトとは限らない」ことを実感しました。そして「患者さんこそが教科書だ」ということに気がつきました。教科書に書かれたことを覚えることが勉強ではなく、患者さんや自然から教わることが勉強。その中にたくさんの知恵があり、人類が健康になるヒントがたくさん含まれていると。以来、一方向からだけではなく、違う方向からも見てあげた方が患者さんのためになることがあるのでは……と考えるようになり、さらに漢方や食に興味を持ち始めたわけです。

山菜の力

植松シェフ:料理人として、春になると山菜が待ち遠しくてたまりません。山菜や芽吹いたばかりの新芽には特別な力を感じるのですが、実際はどうなのでしょうか?

中村さん:それはあると思います。たとえば、お茶もそうですが、新芽の部分を使いますね。大きな葉っぱを使った方が効率はいい。ですが、新芽にはこれから「伸びる」というエネルギーが蓄積されています。山菜だと、ウドやタラの芽もそうですが、完全に開く少し前の方がエネルギーを蓄えていると思います。

植松シェフ:私の感じている力、先生のおっしゃるエネルギーとは何でしょうか?

中村さん:たとえば、新芽の場合、植物としての新陳代謝が活発です。ここには「何かのエネルギー」があると想像できます。まだ学問的に解明されていないことでも、自然の中に存在するものはたくさんあります。旬のものがおいしいというのは、それを体に取り入れることで、その時の自然と一体化するということです。漢方では自然界を陰陽と五行の組み合わせで見ます。その季節ごとの自然の流れを人の体に当てはめて考えるのです。また漢方には「形象薬理学」、すなわち植物の形がその効き目に関係しているという考え方があります。たとえば、フキは茎が空洞ですが、食道とか呼吸器系に関連があるといわれています。

植松シェフ:古くからの民間伝承にも、そうしたことがたくさんありますね。

中村さん:そうです。何かがあったから、誰かが伝えた。それが確認できないのは技術や認識が不足しているだけのことです。認識のされ方により物事は異なってきます。名前の付いているモノやコトだけでは補えないものが存在します。ダイバーシティ(多様性)の時代といわれていますが、芸術も料理も、いろいろな人や発想があることで、いろいろなものを生み出します。ダイバーシティの基本には自然の多様性が不可欠です。漢方薬も複数の素材を組み合わせるのですが、これは料理と同じだと思います。

料理と漢方の共通点

植松シェフ:お話を伺っていると料理と漢方には共通するものが多いですね。まさに医食同源です。

中村さん:漢方のベースに食があって、先にも言った通り「旬のものを食する」というのは、自然と自分たちが一緒になるという発想です。「食」とは「人を良くする」と書きますよね。料理は人を笑顔にします。そして人が幸せになるために行く場所がレストラン。料理人はお客様を笑顔に、元気にしようと料理します。人が喜ぶことに、さらに力を添えられる仕事って本当に素晴らしいと思いますね。

植松シェフ:これまで自分にとって漢方は「不思議なもの」でしたが、お話を伺って、「なるほど!」と思ったことが何度もありました。「おいしい」を追求してきたのが料理だとすれば、漢方は「なぜおいしいのか」を説明してくれる存在のように僕は感じます。本当に「目から鱗」のお話が聞けて、とても刺激を受けました。料理人以外の方の話を聞いて、料理を作りたくなったことは初めてです。感動しました。ありがとうございました。