ルピシアだより 2016年4月号
チェック
お茶を飲みながら 本を読みながら。 お茶を飲みながら 本を読みながら。

今月号の特集は「お茶と本」。本を開くとき、お茶は物語の世界に入る手助けをしてくれる最良のパートナー。実はとっても奥の深い、お茶と本の関係をひも解いてみましょう。

心地よい読書のために

さあ、これから本を読もうという時、何をしますか?
家の中で長時間座っていても疲れない、読書に最適の場所を探し、お気に入りのクッションを背に置き、手の届く範囲にお菓子とブランケットを用意します。

そうして環境を整えたら、お茶をいれる準備をします。これから読む本に合うお茶は何かと思いをめぐらせ、茶葉を選び、シュンシュンと音を立てるケトルからティーポットにお湯を注ぐ……。

読書へ向かうこの一連の小さな儀式にも似た作業は、それ自体が読書をするための導入、読書の一部のような気さえします。

お茶と本、関係がないように見えて、どちらもプライベートな時間に安らぎと彩りを与えてくれるという共通点があります。

物語の中のお茶

一杯の茶のためには、世界など滅んでもいい
-ドストエフスキー「地下生活者の手記」-

本の中には「お茶の出てくる場面」が印象的に描かれている作品があります。イギリスのミステリー作家アガサ・クリスティーは、「ミス・マープル」シリーズなどで紅茶を飲むシーンをしばしば登場させています。名探偵のミス・マープルがお茶に誘われて訪ねた家で殺人事件に巻き込まれるのは日常茶飯事。イギリスを舞台にした児童文学「メアリー・ポピンズ」シリーズ(パメラ・L・トラヴァース著)にも、どんなに忙しくてもお茶の時間だけは守るイギリス人の姿が描かれています。さすが紅茶の国イギリスですね。

仕事机に向かいながら大量の紅茶を飲んでいたと伝わるドストエフスキーは、小説「地下生活者の手記」で主人公に「一杯の茶のためには、世界など滅んでもいい」という台詞を言わせています。

文豪はお茶が好き?

普通の人は茶を飲むものと心得ているが、
あれは間違だ。

-夏目漱石「草枕」-

日本の作品にも、お茶は登場します。太宰治の随筆「富嶽百景(ふがくひゃっけい)」では、太宰が井伏鱒二と訪れた峠の茶屋で熱い番茶をすする場面があります。夏目漱石の小説「草枕」には、お茶が大好きな漱石らしいこんな一文が。「普通の人は茶を飲むものと心得ているが、あれは間違だ。舌頭(ぜっとう)へぽたりと載せて、清いものが四方へ散れば咽喉(のど)へ下るべき液はほとんどない」。

ほかにも、梶井基次郎は日本茶を好み、お葬式の際は遺言により棺にお茶の葉が詰められたといいます。芥川龍之介は火鉢にかけた鉄瓶を一日に3回は空にするほど煎茶を飲んだとか。

お茶は名だたる文豪に愛され、創作活動に影響を与えてきました。それと同じように、お茶は読み手にも作用するように思えてなりません。ルピシアの本好きのスタッフは、「お茶は読書の邪魔をしない飲み物」だといいます。本を開くとき、お茶は、私たちが本の世界に入り込むための小さくとも重要な手助けをしてくれるのです。

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書店員さんに聞きました。

本のプロである書店員の皆さんに、
お茶に合う本について教えていただきました。

記憶は香りとともに

ルピシアのお茶は、一部の書店でも販売していただいています。書店でお茶を販売することで、「本とお茶を一緒にプレゼントされるお客様もいますよ」と話すのは、三省堂書店池袋本店の大山侑乃(ゆきの)さん。女子旅向けの旅行ガイド本とお茶をセットにして、女性から女性へ贈る方がいらっしゃったそうです。

大山さんがおすすめするお茶と相性のいい本も女性に贈ると喜ばれそうな一冊。「嘆きの美女」(柚木麻子著、朝日新聞出版)は美意識の高い女性がたくさん登場し、大山さん曰く「お茶はもちろんティーカップやお菓子にもこだわった女子会を開きたくなります」。

お茶を飲みながら本を読むことが多いという大山さんは、本の内容と、その時に飲んでいたお茶の香りを一緒に覚えているそうです。最近読んだ本では、ピアノの調律師が主人公の物語「羊と鋼の森」(宮下奈都著、文藝春秋)を読むときに、ルピシアの苺のフレーバーの緑茶を飲んだそうで、「苺の香りがするとピアノを思い出す」ほどだとか。

ミステリーには紅茶

書店員の方は皆さん本のプロですが、その中でも本探しをお手伝いしてくれるプロで、「本のコンシェルジュ」と呼ばれる方がいます。紀伊國屋書店 新宿本店の本のコンシェルジュ池上晃子(あきこ)さん は、「資料探しを頼まれることもありますし、昨日は“好きな女の子にフラれたんですが、こんな僕におすすめの本ありますか?”と若い男性のお客様がいらっしゃったので、自己啓発本をご案内しました」となんとも頼もしい雰囲気。

早速、お茶を飲みながら読みたい本を選んでもらうと、雨の日の午後なら、昨年のベストセラーのミステリー「その女アレックス」(ピエール・ルメートル著、文藝春秋)、朝にさらりと読むなら高校で起きた殺人事件の謎を解く「体育館の殺人」(青崎有吾著、東京創元社)とシーン別におすすめしてくれました。ミステリーをハラハラ、ドキドキしながら一気に読むのが好きという池上さんのイチオシは「月光ゲーム」(有栖川有栖(ありすがわありす)著、東京創元社)。「読書にお茶は欠かせません。読み始めると集中するので、途中でお湯を沸かさずに済むよう、大きめのティーポットで渋みの少ない紅茶をたくさんいれて飲んでいます」

同じく紀伊國屋書店 新宿本店で、絵本や実用書を担当する瓜生(うりゅう)春子さんは、「ノンカフェインのルイボスなら絵本を読みながらお子さまと一緒に飲むのにぴったり」と話してくれました。

お茶と本と音楽と

今回、お会いした書店員さんの中には、お茶に縁のある方もいらっしゃいました。MARUZEN&ジュンク堂書店 渋谷店の野中公恵さんは、おじいさまが佐賀県・嬉野でお茶を栽培、販売しているとのこと。子どもの頃から日本茶に親しんできた野中さんらしく、大好きな作品の一つという、東電OL事件を題材にした「グロテスク」(桐野夏生著、文藝春秋)には、「甘くてまろやかな日本茶じゃなくて、きりっと渋みのある日本茶が合いそう」。

野中さんが担当する実用書のコーナーに、ルピシアのお茶と、それに合う本を置いたところ、通常の売り場で売るより約3倍の数を売り上げたというのが、ヒーリング音楽のCD付きの「ぐっすり眠る本」(aceilux著、池田書店)です。「ノンカフェインのお茶の隣に置いたため、お茶と一緒に買われる方もいらっしゃいました」と教えてくれました。

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本を読みながら飲みたいお茶6選

ルピシアのお茶と相性のいい本を、厳選してご紹介します。

英国執事のいれた紅茶を思わせる

英国最高の文学賞、ブッカー賞を受賞したカズオ・イシグロの「日の名残り」は、品格のある英国執事が主人公。第二次世界大戦後、旅をする中で失われつつある伝統的な英国に思いを馳せる物語です。

読み応えのある小説には、渋みの少ない味わい深い紅茶がよく合います。セイロンをベースにアッサム紅茶をブレンドしたコクのあるイングリッシュブレンドにミルクをいれて英国式でどうぞ。主人公の執事がいれた紅茶の味に似ているかも!?

夢の中で終わらないお茶会を

不思議の国に迷い込んだアリスは、時間が止まったまま終わりのないお茶会に参加します。「不思議の国のアリス」のような子どもの頃から大事にしていた物語は、眠りにつく前に読んでもらったあの頃を思い出し、就寝前に読んではいかがでしょう。

ノンカフェインのルイボスティーはおやすみ前にも安心して飲むことができます。

春風のように爽やかな恋模様

主人公の冴えない男子大学生と、彼が思いを寄せる後輩女性の恋物語を描いた、森見登美彦(もりみとみひこ)の「夜は短し歩けよ乙女」。京都を舞台にした大学生の初々(ういうい)しい恋愛ファンタジーには、春風のように爽やかなジャスミンティーがよく合います。

美味しい料理と人情

中国近代史の大作

世界中を旅する

コラム:飲み物による救いの物語

「誰にでも、辛いときがある。精神的に不安定になったとき、まず飲み物をゆっくりと味わうことができれば、どんな人でも気持ちが鎮まるはずだ」

芥川賞作家村上龍による「55歳からのハローライフ」は、55歳前後を迎えた熟年の男女を主人公に、お茶やミネラルウォーターなど飲み物が登場する場面が印象的に描かれている5つの小説が収録される連作長編です。

生活に葛藤を抱く主婦が愛犬と公園で飲む水筒に入ったプーアル茶。古書店で出会った女性に恋心を抱く60代のトラックドライバーこだわりの日本茶。熟年離婚後に一人暮らしを始めた女性がお気に入りのティーカップでいただく蜂蜜入りアールグレイなど……。

普通の人々が事故や過去への執着、環境の変化によって、人生に行き詰まりを感じる状況に置かれた時。物語の中ではお茶や飲み物が、人間関係を修復させるツール、精神を回復させる妙薬として、救済や希望への糸口を与えてくれます。

作家のまなざしは、お茶を中心にした飲み物が生命を再生させる、根源的かつ普遍的な力に向けられ、肩の力の抜けた静かな語り口で紡いでいます。お茶を飲みながら読みたい名作です。

紹介している本をご購入の際はこちらへ

・紀伊國屋書店 ウェブストア

  www.kinokuniya.co.jp

・丸善&ジュンク堂 ネットストア

  www.junkudo.co.jp(4月10日まで)
  honto.jp(4月11日以降)