ルピシアだより 2019年3月号
チェック
桜のお茶

今年の桜のお茶シリーズは、古くから受け継がれる日本の木工技術「組子」を、デザインのモチーフにしています。組子とは、切り込みを入れた細い木材を、釘を使わずに手作業で組み合わせて文様を編み出していく技術のこと。障子や欄間(らんま)など建具の装飾に用いられてきました。

桜のお茶 ラインアップはこちら 〈江戸組子 建松〉麻ノ葉コースター 木曽檜(きそひのき) 美濃(みの)焼 土瓶(どびん)急須 美濃(みの)焼 湯のみ

日本伝統の技術「組子」とは

今年の桜のお茶シリーズは、古くから受け継がれる日本の木工技術「組子」を、デザインのモチーフにしています。組子とは、切り込みを入れた細い木材を、釘を使わずに手作業で組み合わせて文様を編み出していく技術のこと。障子や欄間(らんま)など建具の装飾に用いられてきました。

東京・江戸川区にある「江戸組子 建松」の2代目、田中孝弘さんによると「組子は、0.1mmの誤差も許されない」という精緻な世界。細木の長さや面の角度、切り込みの深さなどを手作業で調整し、何千、何万ものパーツを作り上げていきます。そのパーツの精巧さが、仕上がりの美しさを左右する一番の要です。

自然と季節をいとおしむ

組子の魅力である美しい文様は、200種以上にも上ります。桜をはじめ、麻の葉や胡麻など自然をモチーフにした吉祥文様が多く使われます。

もう一つ、組子ならではの魅力は、自然と共存した佇(たたず)まいではないでしょうか。きっと日本の先人達は、組子越しに透けて見える外の景色を眺めながら、四季を楽しんできたのでしょう。そして、陽光と組子が織りなす光と影から、時間や季節の移ろいを粋に感じ取っていたはずです。

日本人が最も心を躍らせる桜の季節。先人達の美意識と技術の結晶に思いを馳せながら、桜のお茶で春の風情を楽しみませんか。

「組子」の魅力 〜受け継がれる職人技〜
「組子」の魅力 〜受け継がれる職人技〜

組子とは?

組子は、古くから建具などの装飾として用いられてきた、日本が誇る伝統的な木工技術です。釘などの金属は一切使わず、切り込みを入れた細かな木材を一つ一つ手作業で組み合わせることで、美しい幾何学文様を編み出していきます。

  • 組子細工の四枚屏風。
  • 組子の行灯。文様と光が作り出す美しい影も組子ならではの魅力です。

良質な木材を見極める

組子に使う木材は、主にヒノキやスギなどの針葉樹。田中さんの仕事は、良質な木材選びから始まります。「悪い材料を使うと木の収縮が大きく、仕上がりに影響します。我々が使う木材は、大工さんが使うものよりも良い部分。当然、価格も高い」と田中さん。納得のいく木材を選ぶため、自ら産地に足を運び、買い付けてくるのだそうです。

  • 組子の材料となる木材。木目の細かさや質感などから良し悪しを判断し、良質な木材を厳選します。

0.1mmの真剣勝負

組子細工は、何千、何万もの微細な木材のパーツを組み合わせて作られます。「少しでも寸法が狂うと組み合わせが合わなくなるので、0.1mmの誤差も許されません」(田中さん)。無垢の木材から細木を切り出し、長さや面の角度、パーツ同士を噛み合わせるための切り込みの深さなどを、一つ一つ手作業で調整しながら、パーツを作り上げていきます。

  • 工房の壁面に並ぶ様々な道具たち。
  • 「しらがき」という墨付け作業(木材に長さや幅の印をつけること)に使う刃物。鉛筆で墨付けをすると、鉛筆線の太さが誤差につながるため、0.1mmの細い線が引ける「しらがき」を使います。
  • 木材に最適な幅と深さで切れ込みを入れ、木材同士をぴたっと組み合わせます。この噛み合わせの部分は「組手(くで)」と呼ばれ、最も高度な職人技が求められます。
  • 「際鉋(きわかんな)」と呼ばれる道具。木材の際を少しずつ削りながら、パーツの長さや角度を調整します。
  • 完成した長さ約1.5cmのパーツ。この精巧なパーツを何千、何万と作ります。

文様の種類は200種以上

組子細工の特徴でもある美しい文様は、200種以上もあると言われます。桜や麻の葉、桔梗や胡麻など植物をモチーフにした吉祥文様が多く描かれます。当然ながら、使うパーツが多い文様ほど、職人にとっては手間のかかる仕事。「そういう意味では、桜の文様はパーツが多いから大変なんですよ(笑)」(田中さん)。

  • 200種以上もあると言われる組子文様。図案集や明文化されたマニュアルがあるわけではなく、技術の伝承によって今に残っています。
  • 上が二重麻ノ葉、下が桜の文様。ところどころ見られる黒っぽい部分では、「神代杉」と呼ばれる樹齢数百年の高級木材(火山灰の中に埋もれて長い年月を経過した木材)を使用しています。
  • 細かな木材のパーツを組み合わせ、文様を編み出しているところ。想像以上に早いスピードで、どんどんパーツが組み合わされていきます。
  • 「江戸組子 建松」の麻ノ葉コースターは、ルピシア オンラインストアでお求めいただけます。 »詳細はこちら
  • 自由が丘本店では、職人の田中孝弘さんをゲストに招き、麻ノ葉コースターを作るワークショップを開催します。 »詳細はこちら
WEB限定インタビュー 「江戸組子 建松」2代目 田中孝弘さん WEB限定インタビュー 「江戸組子 建松」2代目 田中孝弘さん

「手作り」に惹かれる理由

――組子作りの様子を初めて拝見しましたが、まさに気の遠くなるような作業ですね。

田中本当に細かい(笑)。実は今や、僕らの仕事のほとんどは機械化が可能なんですよ。デジタル加工機を使えば、組子のパーツも狂いなくカットできますからね。ところが、うちのような都内の職人は、土地代が高くて大型機械を入れる場所を確保するのも難しい。そんな事情もあって、うちでは未だに全てアナログ、手作業を貫いています。

――なるほど。でも、ほとんどの作業が機械化できてしまうとなると、職人の腕の見せ所がなくなってしまうのでは?

田中そこは考えようですよね。当然、機械の方が寸分の狂いなく、きれいに作れます。ですが人間の目というのは、全部が均一できれいすぎると見飽きてしまう。そりゃ我々だって、狂いなく作ろうと目指しているんだけど、それでも手で作れば微妙な違いが出てくるわけです。でも、その違いがあるから、飽きずに長く使ってもらえるんじゃないでしょうか。

――確かに、手作りの一点モノならではの愛着ってありますよね。

田中ええ。だからこそ、自分はお客さんと話すことを一番大事にしたいんです。京都に根付いている「おあつらえ」文化じゃないけれど、僕らはお客さんとディスカッションすることによって相手の要望を理解して、希望に寄り沿ったものを作ることができる。逆にお客さんにしてみれば、自分にぴったりのものを作ってもらったという特別感を持って、長く使ってもらえるんだと思います。

腕だけでは生き残れない

――勝手なイメージですが、職人さんってもっと寡黙で、黙々と自分の作りたいものを作っているのかと思っていました。

田中時代が変わったんですね。昔の職人は作ったものを問屋に卸して、そこから小売に行く流れだったので、職人がお客さんと直接会話する機会はほとんどなかった。今は問屋が減っているから、職人自らお客さんとやり取りするし、百貨店の催事にも出向きます。百貨店に出れば外国のお客さんもいるし、他業種の職人もいる。そういう色々な人の話を聞くってことが、本当に重要なんですね。昔の職人は腕でなんぼだったけれど、今の職人は腕だけじゃ食えないから(笑)。

――職人さんも、コミュニケーション上手でないと生き残っていけないと。

田中本当にその通り。僕は完成した作品をお客さんのところに納めにいく時、必ず自分で持っていくようにしているんです。全然たいしたことじゃないんだけれど、それだけでもお客さんは「わざわざ持って来てくれた」って、ものすごく喜んでくれる。すると、ありがたいことに「今度はこんなのが欲しいのよ」って次の注文に発展することも多いんです。やっぱり大事なのは人と人とのふれ合い。日々それを実感しています。