ルピシア グルマン通信9月号 Vol.85 ルピシア グルマン通信9月号 Vol.85
海の豊饒を頂く 海の豊饒を頂く

素晴らしい漁港に囲まれた環境のニセコからお届けする
レストラン自慢のふんだんに魚介類を使った料理の数々。
きっと、食べてみたくなること請け合いです。

海に近いニセコ

ヴィラ ルピシアのあるニセコは冬のスキーリゾートとして知られ、夏はおいしい農作物に溢れる土地です。ゆえに多くの皆さんは山岳、あるいは高原のイメージをお持ちのことでしょう。

しかし、実のところニセコは車で1時間以内の距離で海に接しています。北に小樽(おたる)や余市(よいち)、西に岩内(いわない)や寿都(すっつ)などの素晴らしい漁港を控え、各港では日本海のさまざまな魚介類が水揚げされています。こうした地理的好条件が豊かな海の幸をヴィラ ルピシアのキッチンにもたらすのです。

北海道とニシン漁

さて、まずかんたんに北海道、主に道南の漁業の歩みを説明しておきましょう。江戸時代から蝦夷地(えぞち)は海産物の宝庫として知られていました。当時、蝦夷地の領主であった松前藩(まつまえはん)は福山(ふくやま)(現在の松前)、箱館(はこだて)、江差(えさし)の三湊に限り、本州との交易を許可していました。当初、和人(わじん)の漁業操業は禁止されていましたが、地域を限定し解禁。交易と漁を束ねる商人が誕生します。
 明治になると蝦夷地は名を北海道と改められ、たくさんの開拓民が入植してきます。江戸時代から明治初期にかけての漁業の中心はなんと言ってもニシン漁です。特に江差の繁栄ぶりは有名で、漁村に豪邸が立ち並びました。やがて大量に捕れたニシンは姿を消し、北海道の漁業は大きな失速を経験しますが、ニシン漁で培った定置網や刺し網の技術を生かし、新しい漁業へ歩み出しました。

余市の名物仲買人

積丹(しゃこたん)半島の東の付け根に位置し、ニシン漁で町の礎を築いてきた町、余市。この町で半世紀余りにわたり商いを続ける『新岡(にいおか)商店』は作家・椎名誠さんの作中にもたびたび登場するという鮮魚店。「魚が好きで、魚屋になった」という代表の新岡恭司さんは余市生まれ。元気いっぱいの笑顔で迎えてくれます。

新岡さんは札幌や小樽のホテルやレストラン、すし屋などの名店に鮮魚を納める、ヴィラ ルピシアの植松シェフも高い信頼を寄せる仲買人。メニューに合わせて、新岡さんと直接連絡を取り、仕入れの相談。新岡さんはそうしたリクエストに応え、市場で新鮮な魚を競り落とします。

「余市は年間を通じて魚の種類が豊富。時代により変化してきましたが、最近は甘エビ、ブリ、そしてウニが余市の三本柱。ほかにもカレイ、ヒラメ、アンコウ。冬はタラだね。ニシン? 3月から4月にかけて前の海が“群来(くき)る”んだ」と嬉しそうに話す新岡さん。「群来る」とはニシンの産卵活動のため、海が白く染まること。北の海の豊かさの象徴です。

シェフの宝物

もうひとつ、最近、植松シェフが足繁く通うのが寿都。積丹半島の南約60キロ、寿都湾を囲むように位置する日本海に面した漁港で、寿都もまた、かつてニシン場として栄えた港です。

「ここは南風が強くて、厳しい漁場。でも少々の時化(しけ)でも海に出るのが寿都の漁師です」と語るのが寿都町の有戸(ありと)漁港をベースに漁を営む『マルホン小西漁業』代表の小西正之さん。

「実は小西さんと知り合って、市場ではなかなか手に入らない、長い間探していた“宝”に巡り合ったのです」と頬を紅潮させる植松シェフ。小西さんのような漁師から直接でないと入手できないもの……それは一般に雑魚(ざこ)と呼ばれている小魚です。

「とびきり新鮮な雑魚をずっと探していました。新鮮な素材で作るフランスの庶民的な料理、スープ ド ポワソンやフィッシュカレーは絶品ですから」と語る植松シェフ。もちろん雑魚以外にも、植松シェフは寿都産の新鮮な魚介に夢中です。

「私たち漁師の究極の目的は料理人やお客様に『いい魚だった。おいしかった』と喜んでもらえること。お客様からほめられれば、ますます魚のあつかいもていねいになるというものです。ニセコと寿都はこれだけ近いのですから『ニセコの前浜は寿都だよ』と言われるようになりたい」と語る小西さんもヴィラ ルピシアとの取り組みに心を躍らせています。

産地に近く、新鮮な野菜や魚、上質な肉が集まるニセコを植松シェフは「食材の港」と表現します。そうした環境に甘んじることなく、さらに積極的に車を走らせ仕入れに奔走する植松シェフの貪欲なまでのこだわり。朝一番で港に揚がった魚が昼にはキッチンにある。まるで朝もぎのトマトのよう。ほかの料理人より早く、桁外れに新鮮な食材を使い調理することができる喜びが、植松シェフを走らせずにはいられないのです。

このようにして集められた素材で料理されるヴィラ ルピシア自慢のシーフード・メニュー。いかがですか、食べてみたくなりましたでしょ?

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