ルピシアだより 2020年1月号
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台湾冬摘み烏龍茶 〜旬の阿里山訪問記〜 台湾冬摘み烏龍茶 〜旬の阿里山訪問記〜

待ちに待った台湾茶の旬がやってきました。台湾茶ならではの香りと味わいはどのように生み出されるのでしょう。台湾の名産地・阿里山の茶園を訪ねました。

台湾茶というと、ころんと丸まった茶葉の形が特徴的です。小さな粒の中には、香りや甘みがぎゅっと詰まっていて、お湯を注ぎ足しながら何煎も楽しめるのが魅力。とりわけ旬を迎える冬は、味や香りがより凝縮し、一段とおいしくなります。

ルピシアだより取材班が阿里山の茶園(標高1300m)を訪ねたのは、2019年10月末。ちょうど冬摘み茶の最盛期で、多くの人々が茶摘みに励んでいました。生の葉を触ってみると、柔らかく繊細ながらも、みずみずしくて張りのある感触。この後、どのようにお茶へと変化していくのか胸が高鳴ります。

香りの決め手「萎凋(いちょう)」

夕方、茶園に到着した取材班。早速、建物の地下にある製茶工場へと向かうと、早くも階段の途中からほのかに甘い芳香が漂ってきます。

この時、工場内で行われていたのは「室内萎凋」の工程。萎凋とは、摘んだ生葉を広げて放置し、水分を飛ばして萎(しお)れさせ、茶葉の酸化発酵を促す作業です。

「青臭かった生葉の香りが、萎凋をすることでだんだんと花や果実のような烏龍茶独特の香りになっていくんだよ」。そう教えてくれたのは、この道30年の萎凋の達人・陳さん。室内萎凋では、途中、広げた茶葉を2時間おきに攪拌(かくはん)する作業が4回も入ります。陳さん曰く「攪拌は寝ている茶葉を起こす作業」。茶葉をかき混ぜることで茶葉同士がこすれ合って、より発酵が進むのだと話します。

生きている茶葉

実際、嗅いでみた茶葉の香りは衝撃的なものでした。攪拌前の茶葉の香りはおとなしく、確かに「寝ている」よう。ところが、攪拌すると凛とした花香が力強く発散されて、茶葉が「目覚めた」のがわかります。その後、再び広げられてしばらく放置された茶葉は、先ほどとはまた違って甘くミルキーな香りに!

私たちの目の前でどんどん香りを変化させる茶葉たち。一生懸命生きている茶葉の様子に、愛おしさが込み上げずにはいられません。

旬のこの時期、製茶の仕事は夜通し続きます。午前3時半、2階のベッドで仮眠を取っていた取材班が目覚めると、部屋の中が蘭の花のような甘い香りでいっぱいになっていました。地下の工場から発せられる茶葉の香りが、昨晩以上に強まっているようです。

揉(も)んでほぐす10時間

台湾茶作りは、複雑な工程を経て行われます。その日摘まれた生葉が完成品になるまで1日半。萎凋だけでも大変な時間がかかりますが、茶葉を小さく丸める「包揉(ほうじゅう)」にも、10時間近くかかります。

包揉では、茶葉を布で包み、機械で圧力を掛けて転がしながら揉み込みます。包んで、揉んで、ほぐすという作業を20回近く繰り返し、台湾茶特有の丸い形を作っていきます。これには何度も揉み込むことで、茶葉の細胞壁を破壊し、おいしさのエキスを抽出しやすくする意味があるのだそう。と同時に、茶葉を丸めることで台湾茶の味と香りが、何煎も引き出せるようになるのだといいます。

一杯の重み

今回の取材では、製茶途中でたびたびテイスティングをさせていただきました。工程を重ねるごとに、香りがふくよかになり、味の厚みが増していくのがわかります。

こうした繊細なお茶作りを支えているのは、熟練した職人たちの経験と技術力。一見、繰り返しのように見える作業でも、茶葉の状態を敏感に見極めながら力加減や時間を調整しているのが印象的でした。一杯のお茶にかける作り手たちの思いに触れ、台湾茶の貴重さにあらためて感じ入った取材班でした。

台湾烏龍茶ができるまで